バーベキュー
そして、バーベキューがはじまった。海岸にセットを用意しての本格的なバーベキューだ。
案の定、そこはおれたちの貸し切り状態である。金持ちに乾杯。なんだか、負けた気分だ。
「それでは、夏旅行を記念して、乾杯」
金田は元気にコップをかかげる。めずらしくまともだった。いつもは、《心臓をささげろ》とかネタをぶっこんでくるんだけどな……。やばい、金田の考え方に毒されすぎている。ネタがないことに、寂しさを感じるなんて、もう、おれも手遅れじゃないか。あわてて、ジンジャエールを飲み干す。炭酸が染みる。
「おお、山田くん。いい飲みっぷりだね。どうだい、もう一杯」
「金田課長。そんなに飲ませないでくださいよ」
「いいじゃないか。無礼講だよ、無礼講。ハハッハ」
寒い芝居が進んでしまう。やっぱり、こいつはこうじゃなくちゃな。
「お肉焼けたよ」
佐藤さんが、お皿をもってきてくれた。おれの分の肉を食べる。
これは…………
これは……
これは
≪うまかった≫
とても高級な味がする。脂肪が少なくて、肉本来のうまみが濃縮されている感じだ。
「うまいだろう。今日のために、親父が取り寄せてくれたんだ」
金田はどや顔でそう言った。
「ありがとう。金田のお父さん」
「おい、おれにはっ」
「えっ」
「えっ」
ここでふたりで硬直する。お約束の展開だ。
「くそう。せっかく無理を言って頼んでやったのに」
金田はすねてしまった。
いつものことなので、おれは無視して、バーベキューを楽しむ。こいつの扱いにも少しずつ慣れてきた。
「みなさん、海鮮のアヒージョができましたよ」
管理人さんがそう言った。アルミホイルを開けると、幸せなにおいが充満した。
「これも美味しそう」
女子たちも目がルンルンだ。
ほかにも、ホタテが網に乗っていて、焼けるのを待っていた。最高の肉・海鮮が並ぶ最高のバーベキューだ。
金田もアヒージョの香りに釣られて、すっかり機嫌をなおしていた。あいかわらず、単純なやつだった。
おれは食べながら、空を見上げる。
そこには、満点の星空が広がって、おれたちを包んでいた。




