うみ
「「「「海だあああああああ」」」」
おれたち四人は、声をそろえて叫ぶ。ついにおれたちは、海に来ることができた……。いくつもの困難と、世界線を乗り越えて……。(まあ、主に金田の補習と追試だが)
佐藤さんの予定も無事にクリアし、おれたちは四人そろって旅行当日をむかえた。今朝は、少しはやめの時間に集合し、金田が用意してくれた車にゆられていく。金田は、昨日の深夜まで某動画サイトのアニメ一挙放送を見たせいで、道中ずっと舟をこいでいたが……。
「というか、旅行前に無理しすぎだろ」
おれのツッコミに対して、金田は
「わが旅行前夜に一点の悔いなし。むしろ、マインドが作られた」
と悪びれずに答えていた。あいつらしいといえばあいつらしい。
「ううう、八月が。八月が終わらない。なにかがおかしい」
「フゥーハハハハハ!世界の支配構造が~」
寝言でこんなことをつぶやいている。はたして、どんな夢を見ているのだろうか。それをおれたちは、横で見ていて笑いをこらえていた。
「なんの夢をみているんでしょうね?」
佐藤さんはあっけにとられていた。こんな様子では、百年の恋も醒めてしまうのではないだろうか。おれにとっては、そっちのほうが好都合だが……。
「どうせ、昨日見たアニメのセリフだよ、きっと」
「ちがいない」
こんな状況になれているおれたちは、適当にあしらった。いつものように、無慈悲に。
「ともだちだけで二泊三日の旅行なんて、はじめてなのでとても楽しみです」
「へえ~、佐藤さんもそうなんだ。なんだか、意外」
ガールズトークが花開いている。おれは適当に聞きながら、窓から見える風景を見ていた。おれも友達だけの旅行なんて、はじめてだから昨日は眠れなかった。まあ、別荘の管理人さんが、滞在中は面倒をみてくれることになっているので、厳密に言うと“ともだち”だけではないんだけど……。
金田とテンションが上がって、作ってしまった旅のしおりをパラパラと眺める。海水浴・バーベキュー・金田のおすすめ映画上映会・観光・肝試し・トランプ大会などなど。予定がびっちりと詰まっていた。イベントの文字を見るだけで、こころが躍る。ひとつ懸念事項があるとしたら、金田の手荷物の中に、過去の名作アニメ全七十八話のBDが入っていたことだが…………。
ちなみに、おれは金田と同室である。徹夜でアニメ上映会が開始される気がする。むしろ、そんな気しかしない。ちなみに、昨日、金田から「スレイヤ〇ズの呪文詠唱を暗記するまでねむれまテン」という不吉なメッセージが届いていた。今夜、眠れるのかな、おれ?
そうこうするうちに、おれたちは目的地に到着した。そして、冒頭へと戻るのである。




