補習
スポーツ大会での激闘の後、おれたちは怒涛のテスト週間に突入した。卓球の練習のせいで、あんまり勉強できなかったおれだったが、成績はいつもよりもよかった。きっと、短い時間で集中できたんだろう。だが、その一方で金田は……。
「くそう。赤点だ。レッドだ、レッドカード。補習だああああああああ」
こんなふうに、狂ったように叫んでいた。
「まあ、しかたないだろう。がんばって、補修いってこい」
「おのれ、山田ああああああ。おまえだって、いっしょに卓球の練習していたのに、なんでしれっと学年トップなんだよ」
「まあ、ひごろの勉強のせいかだとしか……」
「そんなのチートや。チーターや。ビーターだ、そんなの」
最後の単語の意味がわからなかった。まるで、ソードがアートする作品のようだ。
「この裏切り者。かえせ、おれの夏休みの三日間。さもないと、おまえの夏休みは、八月三十二日になったり、二週間を何万回も繰り返すことになるぞ」
「そんなオカルトありえません」
「おはよう、のどっち。ぐふ……」
そういうと、金田は机に突っ伏した。おれは、その様子をみながら、ケタケタ笑った。
「くそう、バイトして、オタ活資金を貯めようと思ったのにな……」
帰り道でも、金田はそうグダグダ言っている。
「そういえば、蒼井さんと約束していた遠出の話はどうする?」
「なら、おれんちの別荘にしよう。夏はやっぱり海だ、水着だ、バーベキューだ」
「少しは自重しろよ」
そういいつつ、金田の家の別荘に行けることにワクワクしているおれがいた。
こんなラノベのような王道展開に憧れるなんて、おれは本当にモブキャラなんだな。そんな自虐を考えながら、まだ見ぬ夏休みに胸が躍る。来年は受験があるので、今年は思いっきり楽しんでおきたい。また、モブキャラのようなことを考えてしまった。
「なんだよ、浮かない顔して。それなら、ビーチでナンパでもするか」
金田はそんなのんきなことを言っていた。こいつに天罰がくだればいいのに。
「蒼井さんの前でそんなこと言うなよ。大変なことになるからな」
「どうして、蒼井の名前がでるんだよ?」
いつものラノベ鈍感主人公のような言い方だ。蒼井さんも災難だな。
「ふー」とおれはため息をつく。
「今度は、蒼井さんにちゃんと連絡しておいてくれよな」
ふと、後ろに冷たい殺気を感じる。この展開は……。
「大丈夫だよ。山田くん。ちゃんと聞こえていたから……」
後ろには凍り付いた微笑を浮かべる彼女がいた。
「ところでさ、ふ・た・り・と・も」
わりい、おれ死んだ。昔読んだ海賊マンガを思いだして、処刑前に必死に笑顔を浮かべた。
「ナンパってなに?」
おれの青春か? 欲しけりゃくれてやる。さがせ!ひと夏の夢をそこにおいてきた……。




