打ち上げ
大会の後は、あれよあれよと時間が進んでしまった。
クラスメイトに囲まれて、ワイワイと胴上げされて、簡単な表彰式を済ませた。そして、クラスメイト(というか金田だが……)の「打ち上げ行くぞ~」というかけ声とともに、今は焼肉屋にいる。
「それでは、みなさん、スポーツ大会お疲れ様でした。今回は卓球の団体戦・個人戦一位、二位、女子バレー四位といい結果を残せました。今日は食べ放題なので、たくさん食べましょう。乾杯~」
「「「乾杯」」」
金田が乾杯の音頭を取る。敗戦のショックはほとんどないようだ。サッパリしている。
おれは、優勝した実感もほとんどないのに。これでは、どっちが勝ったのだかわからないじゃないか。
しかし、せっかくの焼肉だ。とりあえず、食べよう。おれの横で金田が大量のカルビを網に投入していた。
「しっかし、山田と金田の決勝戦すごかったな」
「うんうん」
同級生がグイグイと突っ込んでくる。
「どれくらい練習したんだ?」
「えーと、一日二時間くらい?」
おれがそう言うと、友人たちが若干引いていた。
「ガチすぎ」
「もはや、部活じゃん」
「草生える」
某動画サイトのコメントのような辛辣な評価が並んだ。
「どうして、そんなに頑張ったんだよ」
焼けたカルビを口に運ぶ。久しぶりの焼肉だ。口の中で油が暴れる。
「どうしても、負けたくなかったんだよ」
おれは、ポツリとそう言った。そう言うと、今日の出来事が走馬灯のようによみがえる。そして、「ああ、おれは金田に勝ったんだな」という実感に襲われる。嬉しい。嬉しすぎて、口がにやけてしまう。
おれは、慌ててジンジャーエールを飲み干す。そうしなければ、完全にきもち悪い笑いがでてしまいそうだった。
そんなこんな話していると、金田が近づいてきた。
「おう、山田。食べてるか」
「食べてるよ」
少しぎこちない会話になってしまう。
「これだけは言わせてくれ、山田」
「……」
「ぐやじいいいいいいいいい。金がいいんですううううううう」
そんなことを言いながら、座敷をゴロゴロする金田。
クラスメイトから、笑いが起きた。
「でも、優勝おめでとう。山田」
手を差し伸べてくれる。
「ありがとう」
おれも手を握り返す。
握り……
「痛ええええええ」
金田が全力でおれの手を握りしめたのだった。みんなが大笑いしている。
こうして、おれたちはいつもの日常に戻っていく。
打ち上げの帰り。
おれは夜空を見上げていた。
スマホには、一件のメッセージが来ていた。
勝利の女神からだった。彼女からのメッセージは短くこう書かれていた。
「優勝おめでとう。今日はとってもかっこよかったです」と。




