スポーツ大会⑨
第二セットは、怒涛の連続得点でおれが制した。
第三セットは、覚醒したおれと、ネタを完全に封印した本気の金田のガチンコ勝負となった。ついに金田も厨二病キャラを維持できなくなったようだ。
後に、“スポーツ大会の死闘”と呼ばれるふたりの戦いは、こうして最終盤へと突入した。
もう、ポイントもおれの頭には入っていなかった。ただ、取られて、取り返す。胃が痛くなるようなシーソーゲームを繰り返していく。もうすぐ終わりという、点数になっているはずだ。このふたりだけの、祭りがどうしようもなく楽しかった。まだ、終わりたくない。続けたい。そして、勝ちたい。ひたすらに集中する。
終わりたくない。続けたい。勝ちたい。
終わりたくない。続けたい。勝ちたい。
終わりたくない。続けたい。勝ちたい。
頭にはその文字だけが繰り返しフラッシュバックする。好きなひとにかっこいいところを見せたかった。まだ、片思いだけど、絶望的だけど。ここで勝てれば、なにかが変わるとそう信じて……。
おれが、微笑を浮かべる。
「楽しいか。山田」
金田が久しぶりに話しかけてきた。
「ああ、楽しいぜ」
「おれもだ」
真剣勝負の中、ふたりは笑いあった。
「さあ、いくぜ。金田」
「こい、山田」
ラケットからボールが離れていく。自分を自分で褒めてあげたくなるような最高のサービスだった。
金田のレシーブが甘くなる。おれはその甘くなった返球をそのまま強打する。
“金田ゾーン”に入ったボールは、強烈なカウンターでおれの陣地に返球される。
しかし、おれは落ち着いていた。カウンターをカウンターで返球する。剛速球同士の凄まじいラリーが始まった。
勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい。
何十ものラリーのはてに、金田の返球が若干乱れた。
おれは、そのチャンスを見逃さず強打の準備をする。大きな弧を描いた返球を、ジャンプしながら返球する。
「「ジャンピングスマッシュ」」
観衆の声が響いた。
おれは自分で放ったスマッシュの反動で、転倒する。卓球場の天井だけが、視界の中にあった。たぶん、これが決まらなかったらおれの負けだろう。この一球はそういう意味を持った一球だった。
あれが返されたら、もうどうしようもない。そんな気持ちだった。
おれの陣地でボールが跳ね返る音がする。
「ゲームセット」
審判の大声が聞こえた。
―終わった―
率直な感想だった。ここまでやったのだから、もうなにも思い残すことがない。
金田が近づいてきた。手を刺しのべてくれる。これが勝者の余裕か。
「優勝おめでとう、山田」
金田はそう言った。




