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金持ち彼氏と貧乏彼氏  作者: D@2年連続カクヨムコン受賞
第五話 スポーツ大会!?
39/96

スポーツ大会⑨

 第二セットは、怒涛の連続得点でおれが制した。

 第三セットは、覚醒したおれと、ネタを完全に封印した本気の金田のガチンコ勝負となった。ついに金田も厨二病キャラを維持できなくなったようだ。

 後に、“スポーツ大会の死闘”と呼ばれるふたりの戦いは、こうして最終盤へと突入した。


 もう、ポイントもおれの頭には入っていなかった。ただ、取られて、取り返す。胃が痛くなるようなシーソーゲームを繰り返していく。もうすぐ終わりという、点数になっているはずだ。このふたりだけの、祭りがどうしようもなく楽しかった。まだ、終わりたくない。続けたい。そして、勝ちたい。ひたすらに集中する。


 終わりたくない。続けたい。勝ちたい。

 終わりたくない。続けたい。勝ちたい。

 終わりたくない。続けたい。勝ちたい。


 頭にはその文字だけが繰り返しフラッシュバックする。好きなひとにかっこいいところを見せたかった。まだ、片思いだけど、絶望的だけど。ここで勝てれば、なにかが変わるとそう信じて……。


 おれが、微笑を浮かべる。

「楽しいか。山田」

 金田が久しぶりに話しかけてきた。

「ああ、楽しいぜ」

「おれもだ」

 真剣勝負の中、ふたりは笑いあった。


「さあ、いくぜ。金田」

「こい、山田」

 ラケットからボールが離れていく。自分を自分で褒めてあげたくなるような最高のサービスだった。


 金田のレシーブが甘くなる。おれはその甘くなった返球をそのまま強打する。

 “金田ゾーン”に入ったボールは、強烈なカウンターでおれの陣地に返球される。

 しかし、おれは落ち着いていた。カウンターをカウンターで返球する。剛速球同士の凄まじいラリーが始まった。


 勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい。


 何十ものラリーのはてに、金田の返球が若干乱れた。

 おれは、そのチャンスを見逃さず強打の準備をする。大きな弧を描いた返球を、ジャンプしながら返球する。

「「ジャンピングスマッシュ」」

 観衆の声が響いた。

 おれは自分で放ったスマッシュの反動で、転倒する。卓球場の天井だけが、視界の中にあった。たぶん、これが決まらなかったらおれの負けだろう。この一球はそういう意味を持った一球だった。


 あれが返されたら、もうどうしようもない。そんな気持ちだった。

 おれの陣地でボールが跳ね返る音がする。

「ゲームセット」

 審判の大声が聞こえた。


―終わった―

 率直な感想だった。ここまでやったのだから、もうなにも思い残すことがない。

 金田が近づいてきた。手を刺しのべてくれる。これが勝者の余裕か。


()()おめでとう、山田」

 金田はそう言った。

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