スポーツ大会➇
第二セットは再び激戦となった。第一セットを制した金田が勢いのままに、攻めまくり、おれがひたすら受ける展開。まるで、腐女子が喜びそうな文章だ。いつもなら浮かびそうなオタクネタだが、当人たちは完全に試合に没入していた。そんな、余裕はなかった。
一点を取られたら、一点を取り返す。やられたやり返す。倍返しをしたくてもできない均衡した戦いだった。もっと、もっと早く。金田の陣にボールを撃ち込まなくてはいけない。返球を早めなくてはいけない。おれはそれに集中する。
金田のスマッシュが炸裂した。おれはなんとか反応して、ラケットをボールに当てる。しかし、ボールはおれのラケットには当たったが、衝撃をおさえることができずに、上へと向かって弾き飛んだ。これで九対九。ここから先は、意地と意地の張り合いとなる。
「ぐははは、さすがは我が好敵手だ。楽しい、楽しいぞ。だがな、おれのスマッシュは百八式まであるぞおおお」
厨二病キャラを悪化させた金田は暴走していた。
おれは、天を仰いで一息つく。ここが正念場だ。
サービスは金田だ。あいつの手から、ボールが離れる。
「おれは人間を辞めるぞー、山田っー」
まったくブレブレなキャラである。さっきまでの、王子様マンガはどこにいったんだ。
おれは金田のサービスをフルスイングのレシーブで返球する。好返球となった。
「いい球だ。だが、ここは金田ゾーン」
第一セットの最後と同じ展開だった。金田は、おれの玉の勢いを利用してカウンターを打ち込む。ここまでか……。恐ろしい速さのボールを見て諦めかけたおれだが……。
ふと、心に浮かんだのは、さっき話した佐藤さんの笑顔だった。
「でも、かっこよかったよ。今日だけは、金田くんじゃなくて、きみを応援してる」
さきほど、話してくれた言葉を思い出す。
「好きなひとが応援してくれているのに、負けるわけにはいかねえだろうがよ」
そう思うとすべてがスローモーションのようになる。金田の返球が届く場所に移動して、ラケットを迎撃する準備をする。そして、もう一度、金田ゾーンへと強打を撃ち込んだ。
金田は呆然として、反応ができなかった。
「まさか、これが……」
金田はあっけにとられた様子だった。さきほどまでの厨二病のキャラはもうどこかに消えていた。
「無我の境地」
いや、まったく消えていなかったようだ。おれの心境を勝手にマンガネタに昇華していた。
マンガネタにはマンガネタで返す。
「感謝するぜ、おまえと出会えた、これまでのすべてに……」




