スポーツ大会④
最近のおれの朝は早い。
スポーツ大会の練習でクタクタになるので、夜はあんまり勉強できない。だから、夜は早めに寝て、勉強や宿題は早朝に終わらせるのだ。
そう、すべては、「打倒、金田」のため。
あのリア充オタクを倒すためだ。これで、金田がトーナメントの中途半端なところで負けたら、おれの努力はどこにいってしまうのか、少し不安だったが……。
授業が終わった。今日は金田がバイトのため、いつもの卓球場にはいけない。おれは、素振りの確認や動画サイトでプロの名勝負をみることでイメージトレーニングを積み重ねた。日が沈みかけ、少し涼しくなってきたら外に出る。ランニングだ。
こうして、もはや運動部並みの練習量をこなしていた。もうすぐこの生活を始めて二週間だ。高校受験期から衰えていた体力は少しずつもとに戻ってきた。
「あれ、山田くんじゃない。最近はあんまり図書館に来ないよね」
いきなり呼び止められた。この声、内容はもちろん彼女だ。
振り返ると、そこには天使がいた……。
「佐藤さん……」
突然の大天使降臨におれは恐れおののく。
「そんなに驚かなくても。図書館の近くでいつも会っているじゃない」
彼女は苦笑気味だ。たしかに、彼女とは学校で会うよりも、図書館で会うことの方が多い。おれが図書館の近くをランニングコースにしていたのは、「佐藤さんと偶然会えるかも」という淡い期待があってのことだ。こう考えると、自分はやばいやつかもしれない。そこに気がつくと少し落ち込んでしまう。
「今日はランニング? 珍しいね」
「そう、ランニング。スポーツ大会前の自主練みたいな感じ」
おれは汗をぬぐって、そう言う。ちょっと気恥ずかしい。
「わざわざスポーツ大会のために、自主練しているの? すごいやる気だね。うちのクラスなんて、みんな楽しめればいいじゃんみたいな感じだよ。何のスポーツに出るの?」
そう言われてしまうと、こんなに頑張っているのが少し恥ずかしくなってしまう。
「なんだか恥ずかしいね。金田と一緒に卓球だよ」
「そうなんだ。やっぱり仲いいね、ふたりとも」
金田の名前が出ると、佐藤さんは嬉しそうな顔になる。ここで、おれの「打倒、金田」の気持ちが強くなった。気持がメラメラと燃えていく。
「じゃあ、またね」
彼女はそう言うと夕暮れの街に消えていく。
おれはそれを見て、再び走り出した。さっきよりも、さらに加速して……。




