スポーツ大会③
「「よろしくお願いします」」
挨拶を終えて、おれと金田が向かい合う。
中学の部活の時でも感じた試合前の緊張感だ。
金田はおれよりも長く卓球をやっている。運動神経や要領のほうも金田のほうが優れている。どう考えてもおれが勝てる要素がない。
でも……
でも……
でも……
こいつには負けたくなかった。特にこいつだけには、負けたくない。
おれが欲しいものをすべて持っている親友が羨ましい。醜い男の嫉妬と言われてしまったら、それまでだ。
でも、それじゃあ、絶対に後悔する。
勝てないと思っていても、あがかなくちゃいけない。生きているんだから……。
金田のサービスをうまく処理し、緩く入ったやつの返球を相手コートに叩きつける。
おれが先制した……。順調な開幕だった。
「「ありがとうございました」」
おれと金田はそう挨拶する。
結果は……。
11-7でおれの負けだった。おれは、挨拶の後、ずっと床を眺めていた。
金田との練習を終えて、相田と一緒にファーストフード店で夕食を食べて別れた。
「はじめての練習で、すごいうまくなったよな」
「一瞬、負けを覚悟したぜ。スコアもセブンイレブンでイイゴロだったしな」
「ゴロ関係ねえじゃん」
三人で笑い合う。とても楽しかった。勉強のため、部活に入らないおれにとっては久しぶりの楽しさだった。「ああ、生きてるな」と思えたひと時だった。
「「「じゃあ、また明日、学校で」」」
そう言いながら駅で解散となる。
この前、佐藤さんと一緒に帰ったことを思いだす。金田のことが好きだと告げられたことも……。
少し寄り道して、駅前の公園のベンチに腰をおろした。この前みたいに雨は降っていない。
誰もいないことを確認して、おれは大きなため息をついた。
そして、
「あああああああああああああああああああああああああああああああああ」
大声で謎の奇声をあげた。いつものおれでは考えられなかった。でも、声をあげずにはいられなかったのだ。
そうこれは……。
悔しかった。次は絶対に勝ちたい。陳腐だった。でも、確かな本音だった。




