テスト期間③
「佐藤さんが前に言っていた好きなひとって、もしかして……。金田?」
彼女は微笑していた。少しずつ雨が降ってくる。
小雨をものともしないで、彼女は微笑んでいる。顔の赤みが少しずつ深くなる。
そして、彼女の首は少しだけ縦に動いた。「うん」とおれの質問に答えるために。
「やっぱり、ばれちゃったか……。嘘つくの下手でしょう?」
彼女はいたずらっ子のような笑顔だった。
「うん、ばればれだったよ」
だって、彼女は金田の話題になると、いつも以上に笑顔になるし。その笑顔がとてもかわいかったし。おれとよく話していたのも、金田のことをもっとよく知るためだったのだろう。たぶん、そうだ。前に言っていたライバルというのは、蒼井さんのことだったのだろう。たしかに、強すぎるライバルだ。だって、彼女は、親友のおれ以上に金田のことを知っている。普通に考えれば、勝てるはずはない。
少し前のおれはなんて恥ずかしい勘違いをしていたんだろうか。
「やっぱり、ばかなことしているよね。わたし」
彼女は、少しだけ自己嫌悪のようなものが含んだ口調でそうつぶやいた。
「ライバルのこと?」
「うん。我ながら、酷い負け戦をしようとしていると思ってるよ」
「あきらめないの?」
「山田くんが、わたしだったら諦めることできる?」
「……」
おれにとっては、少しだけ残酷な質問だった。胸がチクリと痛くなる。
「でしょ。バレバレかもしれないれど、ふたりにはまだバレてないと思うんだ。お願いだから、内緒にしておいてね」
ふたりは無言で駅に到着した。
「じゃあ、送ってくれてありがとうね。また、学校で」
「遅いから、気をつけてな」
「うん、山田くんも」
そう言って、彼女は雑踏のなかに消えていく。
おれはひとり残された。
一カ月前の言葉を思いだす。
「デモ、ゴメンナサイ。アナタハトモダチニシカミエナインデス」
小雨が降る空の暗闇にむかって、おれは呟いた。
「どうして、あいつは主人公になれて、おれはなれないんだろうな?」
夜空はなにも答えてくれなかった……。




