テスト期間②
「佐藤、さん?」
おれは、片思い相手と図書館で今月二度目となる偶然の遭遇をはたした。
「今日は勉強していたんだね。この前は携帯小説だったけど」
彼女は手を振りながら、微笑を浮かべる。ああ、かわいい。どうして、振られたばかりなのに、彼女の笑顔はこんなに輝いて見えるんだろうか? 神さまがいるなら、聞いてみたい。殺伐としたスレに佐藤さんが!!! 兄貴に影響されて、危うくネットスラングが飛び出しかけた。危ない、危ない。
「あれは忘れてください」
「えー、なかなか忘れられないよ。同級生が図書館で『恋の空』を読んで、涙ぐんでいたところなんて」
ベッドがあればゴロゴロしたい。穴があったら入りたい。そんな心境だ。つまり、終わった。
「いつからいたの?」
「う~んと、一時間前くらいかな。っていうか、この会話デジャブだね」
「たしかに」
彼女はクスッとした。つられておれも顔がほころぶ。
「もう、終わりにするの?」
「うん、夕食作らないといけないから、帰るつもり」
「えーすごいね。自分で作るんだ! ならわたしも帰るから、途中まで一緒に帰ろうか?」
これなんてギャルゲー? 佐藤さん、あんまり希望を持たせないでください。あなたの前にいる男子生徒は、あなたが一度振った相手ですよ? 男子なんてすぐに勘違いしちゃうんですからね。それをわかるんだよ。
「はい、よろこんで!!」
思わず、ブラック企業のような返事をしてしまうおれだった。
ふたりで、駅まで一緒に帰る。わずか、十数分の道のりだ。
「すごい集中していたね。さすがは学年トップ」
「そんなにすごかった?」
「なんか、一心不乱という四文字熟語が世界で一番似合っていたよ」
それは褒められているんだろうか? よくわからない。
「テスト嫌だね」
「なにそれ~嫌味?」
彼女は、少しからかうようにそう言った。
「勉強は嫌いじゃないけど、テストは嫌いなんだよ」
あの独特の緊張感が嫌だった。こんなつまらないことに、人生をかけるおれが少し馬鹿らしかった。
「まあ、わからないでもないかも」
「そういえば、ゴールデンウイークに金田くんとふたりっきりで旅行に行ったんだって?」
「どうして、それを……」
おれは、あの思い出で悶絶する。
「あんなに大声出してたら聞こえるでしょ」
「ですよねー」
「まあ、私のクラスにはさすがに聞こえなかったけどね。すごい話題にはなっていたよ」
黒歴史がドンドン拡散されていく。そんなおれとは違って、彼女はどことなくうれし気だ。そして、おれはひとつの結論に達した。
少しずつ駅が見えてくる。永遠に続いてい欲しい道のりだった。
「なんなら、家まで送るよ。暗いし」
「えっ? 大丈夫だよ。ここから近いし……」
彼女は少し動揺しながら、おれの提案を断った。動揺するほど嫌なのかな……。少しだけ落ち込みそうだ。
気を取り直して、おれは聞かなくてはいけないことを聞こうと思い立つ。それが自分の首を絞めるかもしれなくても……。
「違っていたら、ごめん。ひとつだけ聞きたいんだけど……」
「なに?」
「佐藤さんが前に言っていた好きなひとって、もしかして……」
彼女の顔は少しだけ赤みがかっている。
「金田?」




