テスト期間①
「いやー酷い目にあったな」
「誰のせいだよ」
おれたちは、血の月曜日を乗りこえて、やっと帰路についた。三十分間、蒼井さんに平謝りして、テスト明けにスイーツを奢ることと夏休みは三人で出かけることを約束してなんとか許してもらった。これで、金田の青いツナギの人のネタも打ちきりだろう。いいんだか、悪いんだか。外は夕暮れ時だ。
「本当に死ぬかと思ったわ」
「一瞬、学校の日のnice boat.の映像が頭をリピートしていたぜ」
「おれもだ」
「「ハハハ」」
ふたりとも、少しだけ乾いた笑いだった。金田よ、お前が言うのか?
「学校の日」というアニメは、去年の夏休みに金田から教えてもらった。せっかくの夏休みだから、なんか青春っぽいアニメを観たいと金田に話したら、教えてくれた一本だった。これが孔明の罠とは知らずに。
そのアニメは青春っぽいタイトルとは裏腹に、三角関係のこじれのはてに、ラストはヤンデレヒロインが……。おかげさまで、高校一年の夏休みに新しいトラウマが生まれたわけだ。しばらく、おれを騙した金田と口を利かなくなるほどのトラウマだった。
「じゃあ、おれはここで」
「今日も図書館か?」
「そうだよ」
「学年トップ様は大変ですな」
「おまえも勉強しろよ」
「深夜アニメを見て、眠くなかったら考えるよ」
こいつ絶対に勉強しないなと確信した。
「さて、勉強するぞ」
図書館のいつもの席に到着すると、おれは数学のテスト範囲の復習をはじめる。暇を見つけて、課題となる問題集はほとんど終わっているので、そこで間違えた問題を集中的につぶしていく。本当にオーソドックスな勉強法だとみんなに言われる。ただ、ひたすら反復する。条件反射的に問題を解けるようになったら、ほとんどのテストで結果はでるようになるのだ。
たまに、金田のような要領の良いやつをうらやましくなる時がある。おれは、結果を残して奨学金をもらうことが最善手だとはわかっているんだが、隣の芝生が青く見えてしまうのだ。特にこんな愚直な勉強法しかできない自分にとっては……。
いつの間にか集中していた。もう、七時近い。三時間も問題集を解いていたようだ。外は真っ暗だった。兄貴は、今日は残業で遅くなると言っていた。そろそろ、帰って夕飯を準備した方がいいなと思い、机を片付ける。今日はなにを作ろうか。また野菜炒めでいいかな。そんなことを考えていた。
「やあ、こんばんは」
どこかで聞いた声に呼び止められた。
「また、会えたね」
振り返ると、彼女はこの前見せてくれた満面の笑みでたたずんでいた。




