学校②
「そうか、もうすぐテスト期間なんだな」
金田はそうぼやくように呟いた。周りのオーラがどんよりしている。なんで、連休明けに中間テストなんて、ブラックなイベントを用意しているんだよ、社会。そんな、心の声が聞こえてきそうなくらい、金田は落ち込んでいた。
「くそう、バイトのシフト減らさないとな」
給料が減ることで、オタク活動費が減ってしまうことに落ち込んでいるだな、こいつ。
「テストの心配はしなくていいのかよ」
「そっちは大丈夫だろ。おれの作戦は完璧だし」
謎の自信だ。
こいつの作戦。
それは、引き分け狙いのテスト勉強だ。まるで、サッカーのような作戦だが、これはこれで理にかなっている作戦だ。
「また、いつもの平均点狙いのつまらないサッカーか?」
「とんだ言い方だな。お前みたいに上位狙いの勉強は、大変すぎるんだよ。エスカレーター式に進学できるんだからその利点を生かさないとな。必要最低限の勉強だけして、あとは深夜アニメの時間だぜい」
おれからしたら、うらやましいかぎりの要領の良さだ。成績上位者に支給される奨学金狙いのおれがやったら、間違いなく破産するがな……。
「さあ、今までのノートを集めるぞ。それと先輩から、去年の過去問をもらって、先生が好きそうなところだけ勉強するぜ」
金田はオタクネットワークを駆使して、先輩たちから去年のテストの過去問を入手するルートを確保していた。なんでも、ギブアンドテイクらしい。オタクって怖いね。
「コミュ力モンスターはこれだから……」
「じゃあ、山田は過去問いらないんだな?」
「大変申し訳ございません」
おれは簡単に無条件降伏した。
「特に、今回の日本史は楽勝だぜ。だって、範囲が戦国時代だからな。勉強なんかしなくても楽勝DAZE」
「どうして?」
理由なんて聞かなくてもわかるが、過去問をもらう手前、少しだけ金田にゴマをすっておくことにしよう。
「ゲームとアニメで覚えたからな、ドヤ」
まさに、ドヤ顔だった。ムカつく顔しているだろう、こいつドヤ顔してるんだぜ……。
「バサラ戦国とか関白公の野望とかとか」
聞かれてもいないのに、オタク知識をマシンガントークし始める。これだから、オタクは……。
めんどくさいから早く逃げて、家で勉強しようとおれは帰り支度をはじめる。
「よし、そろそろ帰るか!」
おれは金田のオタクトークを打ち破る銀の弾丸を使い、教室を出ようとする。しかし、おれは逃げることはできなかった。そう、本当の怪物は、すぐそこまで来ていたのだから。本当ならあのゴールデンウィーク中に気がついておくべきだったのだ。そう、あのひとの存在に……。
教室を出ると、目のハイライトを失った蒼井さんが不敵な笑みで待ち伏せていたのだった。




