表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金持ち彼氏と貧乏彼氏  作者: D@2年連続カクヨムコン受賞
第三話 ゴールデンウィーク
22/96

日帰り旅行③

 おれたちは帰りの電車に揺られている。

 今日は濃厚な一日だった。こう言うと、少し意味深すぎるかもしれない。さっきの黒歴史を思いだしながら、おれは嘲笑する。今日も、なにか大事なものを失った気がする。というか、この一カ月で、青春のブラックページを作りすぎている。このままだと、暗黒時代になりそうで怖かった。


「いや~楽しかったな。竜神橋」

 金田はあんな黒歴史を作ったばかりなのに、飄々としていた。

「アユの塩焼きと山菜そば。まさに、山の幸だったな」

 金田は話を続ける。どうして、あんなことをしておいて、こんなに満足そうな顔ができるんですかね、あなたは。

「たしかに、あのご飯は美味しかったよ。だけどな、だけどな……」

「なんだ、あの濃厚な時間を思いだしちまったのか?」

「やめろ、やめてくれ、思いださせないでくれ」

「ああ、ふたりだけの最高の思い出をつくれたよな」

 この金田の意味深発言に、電車内の周囲のひとたちが動揺しはじめた。

「おい、あのふたりってまさか……」

「仲良さそうだよな」

「アッー!」


「おまえ、絶対わざとやっているだろう」

 涙目でおれは金田に抗議する。金田の顔がすべてを物語っていた。


 それは数時間前のできごとである。吊り橋を渡り終えたおれたちは、恋人たちがイチャイチャする鐘の前に立っていた。

「いいのかい。ホイホイついてきて、おれは……」

「おまえが無理やり連れてきたんだろう」

「吊り橋だけにか?」

「うまくないから。いいから離してくれ」

「さぁ、並ぶぞ!!」

「だーかーらー」

 周りの視線が痛かった。一部の婦女子たちからは、黄色い声援が送られた。


 この鐘は、カップルが同時にボタンを押さないと鳴らない仕様らしい。

 ああ、盛り上がるよね~。こういうイベント。おれだってしたいよ。彼女とさ。でもさ、いまここにいるのは、男の同級生なんだよね。神さま、お願いです。金田は美少女にトランスフォームしてください。

「なにをブツブツ言ってるんだよ。もうすぐだぞ」

「いーやーだー」

 幼児退行化しているおれ。

「男は度胸!なんでもためしてみるのさ」

「元ネタと時と場合を考えて」


 ついにおれたちの番が回ってきた。

 周囲の人たちがざわつき始める。金田はノーテンキに、歓声に応えるスポーツ選手のように観衆に手を振っていた。ここまで、来てしまってはもうどうしようもなかった。

 おれたちはタイミングを合わせて、ボタンを押す。綺麗な鐘の音が周囲に響く。

 おれの大事なものが失われた瞬間でもあった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ