始まり①
今日はとても天気が良い。まさに朗らかな春の一日。おれに降り注いだ昨日のあの凄惨なできごとがウソのようだ。
たぶん、あれは夢なんだ。というか、夢なんだ。夢に違いない。夢と言ってくれ。
昨日から続いている現実逃避がとまらなかった。
「おい、山田。昨日、どうだったんだ」
おれが真っ白な灰になっていると、クラスメイトの金田にそう話しかけられた。
こいつは一年の時から同じクラスだ。こいつには、おれが真っ白な灰になっているのが理解できないようだ。
おれは無言で、首を横に振る。
「なんだよ。ダメだったのかよ。あんなに自信満々だったのに」
「草生える」という忌々しい言葉を吐きながら、やつは昨日、協力してくれたやつらに「山田、玉砕したらしいぜ」と言いふらしていた。やめて、追い打ちをかけないで。わたしのライフはもうとっくにゼロよ。
友人たちの「ダセー」とか「ワロタ」とかの暴言を浴びる。おれはさらにメンタルにダイレクトアタックをくらった。
昨日は、窓ガラスを割って青春を謳歌してやろかと思ったほど、落ち込んだのに現実は残酷だ。積極的に追い打ちをかけてくる。
「くうううううううううう」
変な奇声を発しておれは机に突っ伏した。
「ははははははは」
悪友たちの笑い声がクラスに鳴りひびいた。
午前中の授業が終わった。おれは窓際の席でサラサラと砕け散っていた。
生まれてはじめて失敗した告白。おれは何度もそれを思い返し、何度も敗北した。
「デモ、ゴメンナサイ。アナタハトモダチニシカミエナインデス」
機械音のように頭を駆け巡った拒絶の言葉だ。もうトラウマになっている。
今日の授業はほとんど頭に入らなかった。
「そんな落ち込むなよ。今度、チーズバーガーおごってやるから」
落ち込ませた張本人が何を言うのか。
「そんなこと言って。この前みたいに、子供用のエキサイトセットを無理やり注文させるんだろ。おまけ目当てで……」
おれはつい数週間前のトラウマを思い出す。
こいつは筋金入りのオタクだ。魔法少女のおもちゃを目当てに、あの羞恥プレイを演じさせられたことを思い出す。それも毎週、おまけが変わるたびにな……。
「ねえ、ママ。あのお兄さんたちもエキサイトセットだよ。プリガール好きなのかな?」
純粋無垢の女の子が圧倒的無慈悲な一撃をくり広げた。
「見ちゃいけません」
ですよね。知ってました。
しかし、金田はそんなことでは動じない。
店員さんに笑顔で
「スマイルもください」とのたまわっていた……。おれにもください。その鋼のメンタル。
「もう絶対エキサイトセットは頼まないからな。おまけ目当てじゃなかったら行ってやるよ」
「……」
金田は渋い顔をしている。
「図星かよっ!!!」
人間不信になりかけた十六歳の昼休みだった……。