表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/96

始まり①

 今日はとても天気が良い。まさに朗らかな春の一日。おれに降り注いだ昨日のあの凄惨なできごとがウソのようだ。

 たぶん、あれは夢なんだ。というか、夢なんだ。夢に違いない。夢と言ってくれ。

 昨日から続いている現実逃避がとまらなかった。


「おい、山田。昨日、どうだったんだ」

 おれが真っ白な灰になっていると、クラスメイトの金田にそう話しかけられた。

 こいつは一年の時から同じクラスだ。こいつには、おれが真っ白な灰になっているのが理解できないようだ。


 おれは無言で、首を横に振る。

「なんだよ。ダメだったのかよ。あんなに自信満々だったのに」

「草生える」という忌々しい言葉を吐きながら、やつは昨日、協力してくれたやつらに「山田、玉砕したらしいぜ」と言いふらしていた。やめて、追い打ちをかけないで。わたしのライフはもうとっくにゼロよ。


 友人たちの「ダセー」とか「ワロタ」とかの暴言を浴びる。おれはさらにメンタルにダイレクトアタックをくらった。

 昨日は、窓ガラスを割って青春を謳歌してやろかと思ったほど、落ち込んだのに現実は残酷だ。積極的に追い打ちをかけてくる。

「くうううううううううう」

 変な奇声を発しておれは机に突っ伏した。

「ははははははは」

 悪友たちの笑い声がクラスに鳴りひびいた。


 午前中の授業が終わった。おれは窓際の席でサラサラと砕け散っていた。

 生まれてはじめて失敗した告白。おれは何度もそれを思い返し、何度も敗北した。

「デモ、ゴメンナサイ。アナタハトモダチニシカミエナインデス」

 機械音のように頭を駆け巡った拒絶の言葉だ。もうトラウマになっている。

 今日の授業はほとんど頭に入らなかった。

 

「そんな落ち込むなよ。今度、チーズバーガーおごってやるから」

 落ち込ませた張本人が何を言うのか。

「そんなこと言って。この前みたいに、子供用のエキサイトセットを無理やり注文させるんだろ。おまけ目当てで……」

 おれはつい数週間前のトラウマを思い出す。

 こいつは筋金入りのオタクだ。魔法少女のおもちゃを目当てに、あの羞恥プレイを演じさせられたことを思い出す。それも毎週、おまけが変わるたびにな……。

「ねえ、ママ。あのお兄さんたちもエキサイトセットだよ。プリガール好きなのかな?」

 純粋無垢の女の子が圧倒的無慈悲な一撃をくり広げた。

「見ちゃいけません」

 ですよね。知ってました。

 しかし、金田はそんなことでは動じない。

 店員さんに笑顔で

「スマイルもください」とのたまわっていた……。おれにもください。その鋼のメンタル。


「もう絶対エキサイトセットは頼まないからな。おまけ目当てじゃなかったら行ってやるよ」

「……」

 金田は渋い顔をしている。

「図星かよっ!!!」

 人間不信になりかけた十六歳の昼休みだった……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ