ファーストフード店
さて、今、おれが置かれている現状を説明しよう。
この前、告白し玉砕した相手と仲良くファーストフード店でランチをしている、なう。
どういう展開だよ、これ。神さま答えてください。
そう、話は十分前に戻る。
おれは、ゴールデンウィークの真っただ中に、ひとり真顔で、ネット純愛小説を図書館の真ん中で読んでいた。どんな罰ゲームだよと冷静に考えるとそう思うのだが、自分からそんな痛いことをやっていたわけで……。そんな黒歴史を紡いでいた途中、同級生(片思いの女子)にばっちり目撃されて、今に至る。
そう、『恋の空』を読んで、感動して目がウルウルしていたら、目の前に片思いの女子。もう、恥ずかしくて、絶望しかない。これは、黒歴史確定だ。実際、彼女はクスクス笑っていた。
苦し紛れに、「お昼だから、ハンバーガーでも食べない?」と提案した。絶対に断られる自信があったのだ。まさか、告白を断わられた相手とお昼を一緒にできるなんて思わないだろう、普通。しかし、佐藤さんはこう言ったのだ。
「いいよー」
「軽っ!?」
思わず口にしてしまった。
「まさか、誘われた本人に、驚かれるなんて思わなかったな」
佐藤さんは苦笑していた。くそう、勘違いしてしまいそうだ。
そして、おれたちはファーストフード店へと向かったのだった。
金田と一緒にトラウマを作ったあの店に……。
「ここだよね。金田くんと、エキサイトセットを頼んだお店」
彼女は嬉しそうにそう言った。あれれーおかしいぞー。
「どうして、知ってるの!?」
「去年、あんなに大声で教室でしゃっべていて、なにをいまさら」
「そうでした」
しかし、幸運だった。普通なら絶賛金欠中のはずだが、エレベーターの件で、バイト代が手つかずのまま残っていたのだ。だから、ふたりでランチできる。やっぱり、バイトって最高だな。
「でも、意外だったな。佐藤さんとかは、あんまりこういうお店来ないと思っていたよ」
「そんなことないよ。わたしはお小遣い少ないし、よく遊びに来るよ」
「図書館もよくいくの?」
「うん、勉強する時にね。家だとあんまり集中できなくて」
「わかる、おれも」
「だよねー」
「お待たせしました。ハンバーガーセット2つです」
店員さんが料理を運んできてくれた。
おれの顔をみて、店員さん少し顔をこわばらせた。あの時の店員さんだ。店員さんは一礼すると、逃げるようにカウンターに去っていった。
「ねぇ、あのスマイルのお客さん来たよ」
そんな小声のおしゃべりが聞こえてきた。いや、それは金田だから。おれじゃないから。そう全力で否定したかった。
「有名人だね」
「 」
なにも言い返せないおれだった。
食事も終わり、ふたりでコーラを飲みながら駄弁っていた。
「それにしても、わたしたち、よく会うね」
「たしかにね」
前回のデパート、今回の図書館……
「まるで、運命みたいだね、なんちゃって」
彼女はいたずらっ子みたいな笑顔でそう言った。
「あんまり、からかうなよ。勘違いしちゃうから」
「ごめん、ごめん」
こんなやりとりをしていると、自分の気持ちがよくわかる。
ああ、おれはまだこの人のことが好きなんだなという本心が顔を出していた。