図書館にて
世はまさにゴールデンウィーク。
学校や仕事は休みだ。兄貴は、ひたすら寝ると言って、部屋から出てこない。食事もそこそこに、起きたら起きたで部屋に籠って、「タンタン、アニメ三昧」するらしい。
おれはどこかにいく予定もないので、図書館でもいって時間を潰そう。いつもの過ごし方だった。そう思って、外に出た。街にひとは少ない。みんな里帰りでどこかに帰ってしまったのだろうか。実家がこの街のおれにはピンと来ない話だ。たまには、両親の墓参りにでもいかないとな。
「この前の告白がうまくいっていたら、楽しい連休だったのかな……」
ふと、そんな気持ちになってしまう。ありえたかもしれないもうひとつの世界を夢想してしまう。
やめろ、考えるな。感じるな。このままでは、リア充の暗黒面に呑まれてしまう。
「天気イイナ」
なんだよ、それ。自分で言っていて、ツッコんでしまう。そんなんじゃ、暗黒面に勝てるわけねぇだろう。
そんな独り言で、気が紛れるわけがなく、逆にドンドン落ち込んでしまうルートだった。そんなことを考えていると目的の図書館に着いてしまった。
図書館はいい。何がいいって、本が無料で読めるのだ。そんなにお金に余裕がなくても、暇をつぶせる最高の場所だ。
いつもは勉強するんだが、今日はそんな気分になれなかった。適当におもしろそうな小説を見繕って、テーブル席に座って読みはじめる。十年くらい前に出版された恋愛を主題にしたベストセラーだ。純愛もの。同級生に見られたら死ねる。そう確信しながら、スリルも楽しむ。
連休中だけあって、人も少ないので図書館は自分だけの世界だ。
それから二時間後。おれは夢中になって、本を読み終わった。
「うー」といいながら、体を伸ばす。集中して、読んでいたので、肩が凝ってしまった。そろそろ、正午だから家にでも帰るかと思ったその時、
「読み終わったの?山田くん?」
ひょんなところから、見知った声が聞こえた。
そう、つい一か月前に失恋し、一週間前にエレベーターに一緒に閉じ込められた女の子の声だった。
「佐藤さん……」
彼女は、俺の前の席で勉強をしていた。
「ごめんね。集中していたみたいだから、声かけにくくて」
「全然、気がつかなかったよ。いつから」
「一時間前くらいかな?」
「そんなに前から」
そして、おれは読んでいた本のタイトルに気がつく。これはまずい。
「それにしても意外だったな。山田くんってそういう小説が好きなんだね。なんというか、乙女チックだね」
おれと佐藤さんの間には『恋の空』というネット恋愛小説が置かれていた。