ゴールデンウィーク前夜
ついに明日からはゴールデンウィークだ。
まだ、高校二年がはじまって、ひと月しか経っていないのだけれど、色々なことがあった。いや、ありすぎた。
告白(玉砕)、失恋、失恋相手と密室に閉じ込められるなどなど。まあ、それについては、ほとんど黒歴史しかない件については……。とりあえず、おいておこう。これ以上考えてはいけない。暗黒面に取り込まれる。
明日からは連休だ。連休パワーで、今の嫌な流れを断ち切るのだ。
そして、おれはスマホの予定を眺める。
眺める。
眺める。
そう、答えは……。
「真っ白」だった。
こんなんでいいのか、おれの青春。高校二年の貴重な連休なのに。
絶望に沈みながら、おれは台所に向かった。
そろそろ、親代わりの兄貴が帰ってくる時間なのだ。もやしとキャベツを味噌で炒めるだけの簡単な男料理だ。兄貴の給料日まで、あと数週間ある。しばらくは、節約だ。ふたりぐらしになってから、おれは家事のほとんどをこなしていた。
「ただいま~」
ドアを開ける音がする。兄貴が帰ってきた。
「おかえり。今日は早かったな」
「連休前で、仕事なんかしたくないからな」
ネクタイは嫌いだと言って、兄貴は投げ捨てた。不良青年状態の兄貴が、ソファーでぐったりする。
「飲み会とかなかったのか?」
「今の課はそんなに体育会系じゃねぇんだよ」
「今日のめしはなに?」
「もやしとキャベツの炒め物、サバ缶」
兄貴は不思議な顔をする。なんだ、その売れ残りのクリスマスケーキを見るような眼は。まあ、メニューについてはお察しなんだけどね。
「今日のめしはなに?」
おかしいな、世界線でも変わったのかな。この既視感。
「あきらめろ。これは現実だ」
「これが世界の選択か」
「ビールがあれば、なんでもいいんだろ」
これが数年間で学んだ魔法の言葉だ。
「まあな」
いつもの夕食がはじまった。
「最近、高校はどうだ」
「まぁ、ボチボチ」
「ところで、この前の告白はどうなった?」
「ごほお」
キャベツが喉につまるかと思った。この話は兄貴には言っていないのに……。
「どうして、それを」
「金田君から聞いた」
「あのやろおおおおおお」
兄貴と金田は仲がいい。去年、遊びにきたときにお互いの趣味で、意気投合し、おれが間に入らないで連絡を勝手に取り合っているようだ。
「で、どうだった、どうだった?」
「絶対、結果知ってるだろ」
「もちろん」
「兄貴いいいいい」
「弟くん大敗北。ねぇ、今どんな気持ち。ねぇ、ねぇねぇ」
見事な煽りっぷりだった。さすがは現役のねらーだ。まぁ、幼い時からいじめられていたおれは、最強のスルースキルを持っている。これは無視だ、無視しかない。抑えるんだ、おれの右腕。まだだ、腹パンにはまだ早い。
「まぁ、冗談はこれくらいにして」
「かなり、本気だったろ」
「古典でもよく言うだろ。負けたことがあるというのが……」
「それはオタクの古典だから」
兄貴はきゅうに真面目な顔になった。
「若いうちに、いっぱい失敗しろよ」
自分だってまだ若いくせに……
「おう」
そう答えるのが精一杯だった。