デパートにて③~幼馴染サイド~
「今日はデートですか?」
なんという爆弾が投下されたのだ。これは彼が好きなギャルゲーなら、ルート分岐に関わる重大な選択肢。わたしは彼の次の発言に注視した。
「えーっと」
彼は言いよどむ。わたしは心臓が張り裂けそうだ。そこまで、ゲーム主人公を表現しなくていいのに。
「なんというか。一番大事な、特別な友達です」
彼は照れながらそう言った。
(ううううううううううううううううううう)
この選択肢はなんというか、
なんというか、
なんというか……
微妙だった。“一番大事な、特別な”というところはとても嬉しかった。最高だった。
でも、“友達”か。
落ち込んでいいのか。嬉しがっていいのか。わからない。
「一番大事」で「特別」という言葉だけが、残ればいいのに。
「イズミ、どうしたんだよ。次、行こうぜ」
いけない。ボーっとしてしまった。
「そうだね」
わたしは短くそう返した。この時のわたしの表情は笑っていたのだろうか。深刻な顔をしていたのだろうか。わたしにはわからなかった。
「次はどこに行こうか?」
「ご飯には少し早いからゲームしたいかも」
「OK。じゃあ、ゲーセンな」
ゲームセンターに向かう途中、わたしたちは何を話したのかよくおぼえていなかった。
どうしてだろう。そんなわかりきったことをわたしは考えていた。
わかっていたのに、見ないようにしていたのだ。
特別だっていう言葉が、どうしようもなく嬉しかったことに。
「早速、遊ぼう。何やる?」
気がつけば、そこはゲームセンターだった。
「太鼓の超人かな」
「音ゲーか、いいな」
わたしは少し古いラブソングを選曲する。
「これ、知ってる?」
「この前、アニメで、声優さんがカバーしてたやつだわ」
「じゃあ、これね」
「なんで、この懐メロ?」
「今、そんな気分だからね」
わたしたちは、太鼓をたたき始めた。
ゲームはドンドン進んでいく。
音楽はサビの部分まできた。
歌詞は、思い人への愛をささやいている。
太鼓の音とゲームセンターの雑音で、彼には絶対に聞こえないという確信があった。
だから、わたしは素直になる。
「あなたは、わたしにとっても特別なひとだよ。これまでも、そして、これからもね……」
わたしたちは、ハイスコアをたたき出した。
「よし、遊んだし、昼でも食べるか!」
「行きたいカフェが入ってるんだけど、行ってもいい?」
「おう、何階だ?」
「十階だよ」
カフェに向かおうとすると、エレベーターに人混みができていた。
どうもエレベーターの故障で、なかにひとが閉じ込められたらしい。
まさか、それが自分のクラスメイトだとは思いもしないわたしたちだった。