デパートにて②~幼馴染サイド~
「お待たせ。待った?」
「ううん、今北産業」
いつもの待ち合わせだった。
もうこの定型文がわたしたちのなかでは、あいさつみたいになっている。彼のネットスラングはよくわからなかったから、結構勉強した。たまに、スルーもしている。彼と一緒だと、スルースキルも上手に上がってくる。
「悪いな。急に」
彼はちっとも悪く思っていないのに、そう言った。
「いいよ。いつものことでしょ」
「そうだけどさ……。それでさ、今日は……」
「一人一個の限定版を買うために、一緒に来てくれってところかな?」
「……」
「やっぱりね」
彼はどこかのハンターマンガの登場人物のように「答えは……沈黙」と言わんばかりの態度であった。
「どうしてわかった?」
「いつものことだから」
「オタク以外なにもねえんだよ」
「そんな、〇月のライオンみたいに言われても」
「元ネタよくわかったな」
「全巻読まされたからね。誰かさんに」
彼は笑いだした。わたしも釣られて笑いだす。
こんなトークをして、早十五年だ。
他のひとから見れば馬鹿馬鹿しいと思うだろう。それでも大切で幸せな時間だった。わたしにとっては……。
「いつもありがとう。ばあさんや」
彼の口調に少しドキリとする。変な未来予想図が浮かんでしまいそうだった。
具体的に言えば五十年後くらいの幸せな予想図が。
「いいんですよ、おじいさん」
わたしは彼に合わせてそう返す。彼も少しだけ顔が赤くなった。
「じゃあ、行こうか」
「そうだね。終わったら、なにか奢ってよね」
「へーい、へーい」
ふたりで、アニメショップに入った。
いつものように彼は脱兎のごとく、目標に向かって突っ込んでいく。このままでは、おいていかれてしまう。まるでミサイルみたいだった。いつものことだけど……。わたしは彼を見失わないように、少し早歩きでついていく。
「あった、あった!!」
彼はいつものように踊りだすかのような勢いで喜んでいる。まるで、おもちゃを手にいれた子どもだ。いまも子どもだし、おもちゃを手にいれたことにちがいはないんだけど。
「ほんとうにかわいいな、あなたはいつも」
わたしは小声で本音を告げる。絶対に聞かれない自信があった。
「えっ、なんだって?」
これだから、難聴ラノベ主人公は……。まあいつものことなんだけどね。
「なんでもないよー」
少し怒って、そう答えた。聞いて欲しかったとも思うし、聞かれないで安心したという気持ちもあった。
「よかったね。これが限定版?」
「そうだよ。今回はヒロインの抱きまくらがついてくるんだ」
「へー、ソウナンダ」
その情報入らなかったな。わたしは本気でそう思った。
好きなひとが二次元とはいえ、別の女性と寝ているなんて、もうなんだかモヤモヤする。
「一万五千円です」
「ポイントで」
「はい、いつもありがとうございます。金田さん」
このひと、一万五千ポイントもってるよ。店員さんにも名前おぼえられているし。
「今日はデートですか?」
店員さんが爆弾を投下した。