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エレベーターにて①

 天気は晴。朗らかな春の日差しが心地よい日だった。失恋して、はじめての土日。世間はあともう少しでゴールデンウイークとなる。街のみんなが浮かれていた。少なくともおれにはそんな風に見えた。おれも、どちらかといえばうかれていたんだ。失恋した気分転換に買い物でもしようと思えるくらいには……。

 

 それが最悪の休日の始まりとは、露も知らずに……。


 春休みの時、少しバイトをした。日雇いの短期バイトだったのだけど、そのバイト代が今日、振り込まれたのだ。奨学金は、将来のために節約しておきたいので、このバイト代は嬉しい臨時収入だ。なので、少し贅沢しようと、デパートまで遊びにきたのだった。とりあえず、なにか美味しそうなものを食べよう。そう決心した。美味しいものが、いまのおれの心には必要なのだ。


 時刻は十時三十分。レストラン街が開くまで、あと三十分だ。


 本屋で時間でも潰そう。そんなことを考えたのがいけなかった。

「……」

「……」

「遅いね」

「そうだね」

 そして、おれは失恋した相手とエレベーターに閉じ込められている。どうして、こうなった。そんなことはおれが聞きたい。


 小説でも買おうかと本屋に行った。節約のため、図書館ばかり利用していたので久しぶりの本屋だった。ブラブラと本屋を物色していたその時。おれは見覚えのある少し茶色かかったロングヘアの同級生と出会った。つい、一週間前におれを振った佐藤さんだった……。


 むこうは気がつかなかったのだろう。挨拶もなくすれ違ったのだ……。

 おれは、なんだか居心地が悪くなって、エレベーターに逃げ込んだのだった。「そうだ、雑貨屋でみたいものがあったの忘れてた」と心の中で言い訳をしながら。


 だって、きまずいじゃん。どこからどうみても振られたばかりだし。たぶん、もう望み薄いし。

 言い訳が言い訳を生んだ。これは逃げじゃない、勇気の撤退だから。そんな馬鹿なことを考えていた。それが、最悪の大悪手だった。


 雑貨屋のある九階のボタンを急いでタッチした。

「あっ、待ってください」

 女性の声がした。

 おれは慌てて「開」のボタンを押して彼女を待った。

「すいません。ありがとうございます。って、あれ?」

 エレベーターに飛び乗った声の主は……。おれが失恋した同級生、佐藤愛さんだった……。おれは少しの時間、硬直してしまう。

 って、これなんて修羅場だよ。

 そう突っ込みながら、エレベーターは上昇していく。

 おれの休日は始まったばかりだった。

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