プロローグ
「佐藤さん、好きです。おれと付き合ってください」
言った。おれはついに一年間の片思いの末に自分の心をさらけだしたのだ。
場所は、夕暮れの教室。まさに典型的な告白シュチュエーションだ。
クラスメイトの協力で、おれは最高の環境を作ることができた。
一か月、準備を重ねた告白タイム。 おれの必勝パターンだ。
ここまでの短い人生で、これで五戦五勝。まさに勝率、百パーセントだ。
おれは、六回目の勝利を確信していた。さあ早く答えをくれ。佐藤さん!!
「…………」
「…………」
おかしい。こんな長い沈黙はおれの経験上ありえなかった。いくら引く手あまたの高校のマドンナといえ、ここまで着実に準備をしてきたのだ。負けるわけが……。
おれは、頭を下げて、永遠とも思えるほどの時間、床を凝視していた。
「あの、佐藤さん?」
おれは痺れを切らして、彼女のほうを見上げた。
彼女は微笑んでいた。よし、勝ったな。おれは、勝利を確信した。
「とても嬉しいです。ありがとう」
勝った。いや、まだ笑うな。そうだ、彼女が立ち去ったら勝利を宣言しよう。
内心、狂喜乱舞のおれをよそに彼女は続けて言う。
「でも、ごめんなさい。あなたは友達にしか見えないんです」
彼女は「それじゃあ」と言って、上品に教室を後にした。おっと、これは予想できなかった。あれ、あれれー、おかしいですよ。これってもしかして、頓死?
おれはひとりで佇む。
彼女の言葉がよくわからなかった。よく思いだす。
「デモ、ゴメンナサイ。アナタハトモダチニシカミエナインデス」
「デモ、ゴメンナサイ。アナタハトモダチニシカミエナインデス」
「デモ、ゴメンナサイ。アナタハトモダチニシカミエナインデス」
「デモ、ゴメンナサイ。アナタハトモダチニシカミエナインデス」
まずは、音だけが、何度も頭の中で繰り返される。
「でも、ごめんなさい。あなたは友達にしか見えないんです」
やっと日本語変換ができた。あれれ~おかしいぞ。振られたみたいになっているぞ~。警部さんはどこかな? ドッキリカメラかな?
そして、現実逃避が終わると、おれに絶望感が襲い掛かってきた。
人生ではじめて味わった恋愛の敗北だった……。
外の世界はいつの間にか闇に支配されていた。