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後攻を引いたものの、試合は開幕直後からこちらの優勢だった。余裕で一回表を零点で抑え、いよいよ俺達が暴れる番だ。
手堅くヒットとバントを決め、あっと言う間に三塁までベースが埋まった。待ってましたとばかりに膝を叩き、俺はベンチから腰を上げる。
「頑張れよ、シン!」
「一気に稼ぐチャンスだぞ!!」
「分かってるさ。それより、お前等も準備しとけ。速攻で順番回してやるからよ」
軽口を叩きつつグラウンドへ。俺と入れ違いに、向こうのヘボピッチャーがすごすごとベンチへ帰って行くのが見えた。
新投手はやけに背の高い(目測百八十センチ以上)、野球帽を目深に被った奴だ。坊主頭ではないらしく、端から黒々としたモミアゲが覗いている。
俺の視線に気付いたのか、相手が口角を上げた。瞬間、ゾッ!背筋に悪寒が走る。
(何だよ、薄気味悪ぃ奴だな……まあいい。こいつもすぐに引っ込ませてやる)
所詮は万年三流校。幾らピッチャーを替えた所で無駄だ。
ホームベースに立ち、バットを二、三回振って精神集中。良し、何時でも投げてきやがれ!
キャッチャーの背後の審判に声を掛けられ、敵も所定の位置へ。ただ不思議な事に、味方の筈の相手チームからの声援は無い。厭な予感がする。とっとと御退場願いたいぜ。
ボールを握って感触を確かめた奴は、キャッチャーに指で合図。首肯を確認し、左脚を上げ大きく振り被る。ヒュンッ!フン、球速は中々、
「!!?」
ボールが眼前に迫った瞬間、本能的恐怖が稲妻のように全身を貫いた。結果、デットボールギリギリを攻めてきた一球をバッ!飛び退いて避ける無様を晒す羽目に。くそっ、一球目から何つう危険球投げてきやがる!?抗議必死だぞこ、
ドオォンッ!!!!「っ!!!!?」
すぐ右側で発生した、凄まじい爆音と豪風。条件反射で俺はバットを捨て、伏せの姿勢で耳を塞いだ。と、ガンッ!硬い物が二の腕に当たる。
「なん―――――っっうわああっっっ!!!」
ボトッ……重力に従い、白いユニフォームを汚した物が足元へと落ちる。レガース付きで吹き飛ばされた、キャッチャーの片脚が……。
「な、な……何だよ、これ………!!?」
恐る恐る振り返った先には、更なる地獄が待っていた。
哀れ爆心地にいたキャッチャーは黒焦げの上、グラウンドのあちこちに散らばっていた。約一メートル後方にいた審判も、何が起こったのか分からないと言いたげに目を見開き、首から下を吹き飛ばされて地面へと転がっていた。
数秒の静寂の後、大パニックに陥る球場全体。我先にと出口へ詰め駆ける観客達の足音を聞きつつ、俺は呆然とその場に立ち尽くしていた。
(今のボールが爆弾?なら、狙われていたのは……)