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「ばぶー」「ああ、良い月だな」


 銜えたおくるみから満月に手を伸ばす赤子。その短くか細い腕は、手首から上が灰色の初心な獣毛に覆われていた。

 彼は捨て子だ。その証拠に、入れられていた籠には手紙が置いてあった。恐らくは半獣半人の我が子を手放すに至った、止むに止まれぬ事情が書かれていたのだろう。だが生憎、私は人の字が読めない。仕方なく孤児だけ回収し、住処である『ホーム』へ引き返している次第だ。


―――なあ、クローディア。もしこのまま治療法が見つからなかったら、キューは一生子供もいないまま死ぬんだよな……。


 沈鬱に悩む友人程聡くはないが、私も幾らかは共感出来た。

 何ら落ち度の無いあの天真爛漫な少女は、生まれつき恐ろしい細菌に冒されている。子を成す事はおろか、不特定多数の中での生活すら危うい程の重病だ。


―――……酷えよな。俺が適合者なら、代わりに背負ってやれるのに……。


 アダムは彼女を、キューを異性として真摯に愛していた。だが一度世間に拒否された彼にとって、この運命は余りにも残酷過ぎる。苦しみを和らげる事すら出来ず、ただ傍らで見ているしかない宿命。だから私は、


「さあ、名も知らぬ赤子よ。もうすぐ『ホーム』が見えるぞ」「ぶー?」


 お節介な親心と苦笑するだろうが、アダム。今のお前に必要なのは、目に見える『希望』だ。この幼子を彼女と力を合わせて育てる内、きっとお前の憂いは晴れるだろう。そして、願わくば悟ってくれ。病があろうと無かろうと、お前達家族の絆は永遠に不滅だと言う真実に……。 

 トサッ。顎に疲れを覚え、一旦赤ん坊を地面に降ろす。首を回しての小休憩。改めて布を銜え直し、満月の下に建つ我が家へと歩を進めた。

「あそこは皆温かい。お前もきっと気に入るだろう」

「だぁだぁ」

 そうだ。だから早く戻って来い、我が唯一無二の盟友よ。お前の驚き、呆れ、そして―――喜ぶ笑顔こそが、私がこの宇宙で最も愛する物なのだから……。




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