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『―――こちらA地点。たった今ターゲットが通過したよ』「了解」


 あれから年月は過ぎ、宇宙歴六百七十四年十一月。忠実なメイドを喪いつつも、俺達四人は待ちに待った復讐当日を迎えていた。

 今日の標的はアンダースン三姉妹の長女ビーナスと、次女のアルテミス。俺と桜の記憶を封じた憎き仇共だ。

 ターゲットは現在車を運転し、姉妹共有の別荘へ向かっている最中だ。目的地は見晴らしの良い山頂で、途中数キロに渡り断崖絶壁沿いの山道。事故に見せかけ、車ごと墜落させるにはうってつけの場所だ。


―――君がアダム、か。亡くなった先代から噂は聞き及んでいる。


 昨日久方振りに帰還した霊峰で、マッケイJrと交わした会話が脳裏を過ぎる。


―――彼は常々語っていた。もう君はここへは戻らないだろう、と。


 まだ若い雄熊は淡々と告げ、窓辺に並ぶ鷹達を見やった。


―――彼等に因れば、君が世話になっていた老人も、先日病院で息を引き取ったそうだ……そうか。なら帰りに挨拶していくといい。埋葬されたのは麓の墓地だと聞いている。


 着々と開発の手が忍び寄る麓へ戻る際も、Jrは現状については何も語らなかった。年若い長は既に悟っていたのだろう、自分達の行く末を……。

 手前十五キロ地点にいたジョシュアの報告後、程無く携帯が震動。確認するまでもない、オッサンだ。

「はい」

『B地点、今横を通って行った……本当にやるのかい、アダム?』

「当たり前だ。今更止められるかよ」

『そうか……分かった、もう切る』プツッ。

 舌打ちし、反対側の山から向かいの山道を睨み付ける。

(土壇場になって怖気付いたのかよ、あのチョビ髭……百段の武道家が聞いて呆れるぜ)

 奴の待機場所は十キロ地点。次の桜の電話が鳴ったら襲撃命令を、と、来た!

 一コールの間も惜しく通話ボタンを押した俺を、焦り過ぎよアダム、女家族は苦笑混じりに嗜めた。

『いよいよね。成功を祈っているわ』

「ありがとう」

 携帯を仕舞った俺は、逸る心のまま隠れていた樹から飛び出す。そして予め目星を付けておいた岩の上で、鋭く口笛を一吹き。途端、空を覆う雲が暗く蠢き出した。その正体は俺が半日掛かりで山々から呼び集めた、数百羽に及ぶ鳥達だ。

 準備完了と同時に、別荘手前の最終カーブ。傾斜する山道の樹々の隙間から、赤いコンパクトカーがハッキリ見えた。獲物だ!


―――シン。「五月蝿え。この極悪人共が……!!」


 俺達に御仕着せの人生を押し付けやがって。その罪、命を以って償ってもらう!


「行けっ、お前等!!」


 号令を聞き、大群が一斉に滑空開始。果たして数秒後、酷く耳障りなブレーキ音が周囲の峰々まで響き渡る。それが止まぬ内に、錆びかけたガードレールが突き破られた。そして数十秒後、遥か奈落での衝突音で喧騒は幕を閉じた。

「やった!とうとうやってやったぞ……!」

 後はキュー達を取り戻し、ルナ・アンダースンさえ殺せば復讐は完了、


 プルルル!「チッ。人が感動している時に、せっかちな連中だぜ―――はい。巧くやってやったぞ。そこからでも見えるだろ?」『?そうなのか?』「っ!?」


 ずるっ!危うく岩から転げ落ちかけた。どうにか手近な幹に左手を突いて堪える。

『それより俺、水族館で保護されたオットセイの診察中なんだ。餌は吐くわ、触ろうとすると暴れるわ、まるで手が付けられない。今声を聞かせるから、いつも通り翻訳してくれよ』

「……おい、寅。俺はたった今記念すべき第一歩をだな」

『ああ、そりゃおめでとう。けど、生憎こっちも急患なんだ』

 くそ、相変わらず空気をわざと読まない奴め。こんな事なら番号なんぞ教えなきゃ良かったぜ。

「仮にも医者の分際で他人任せとか……ああ、分かった分かった。よっと」

 捻挫しないよう慎重に岩を降り、家族の待つ集合地点目指して獣道を歩き始める。

「因みにこれで貸し三つだからな」

『おいおい。お前からの悪態分を差し引いたら、まだ精々一位だろ?』

「ぬかせ、半人前。いいからとっとと患者の所へ走れ、こののろまが」

『OK』

 チッ、折角の達成感が台無しだぜ。ま、合流までの暇潰しとしては悪くねえか。 




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