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 記憶喪失の姫君と再会を果たし、アンダースン三姉妹への殺意をくっきり自覚した数日後。俺は復活以来、初めて環紗へと舞い戻った。

 “銀狐”の巧妙な偽装工作に因り、シン・アンダースンと言う少年は死んだ。勿論、変装は怠らない。道端で元養母にバッタリ出くわした挙句また病院送りなど、死んでも御免だ。

 ようやく半分まで伸びた髪を帽子の下で撫でつつ、記憶にある住所へと向かう。しかし、目的地の数百メートル手前。無人だと思った河川敷で、捜していた当人から声を掛けられた。


「おーい、シン!」「!?あぁ……くそっ。吃驚させんなよ、キャプテン」 


 横に大きな段ボールを置いて座る元同級生は、悪い悪い、ぎこちない様子で右腕を上げた。

「やっぱ切れてたのか、神経」

「ああ。リハビリでどうにか生活に支障無い所までは回復したが、流石に前みたいな剛速球を投げるのは無理だ。退院したその足で、退部届も出してきた。尤もプレーしようにも……肝心の部員が半数以上いなくなった上、残った連中も次々辞めてて、とっくに廃部状態だったがな」

「………」

 人間相手に罪悪感を覚えるのは癪だが、こいつとは中学からの付き合いだ。他人の数倍努力していた事も、密かにプロ選手を目指していた事も知っている。俺がキューの幻影に心奪われ情緒不安定に陥る間も、一人黙々とトレーニングに励んでいた。なのに選りにも選ってあの野郎は!!

「にゃあ?」

「ああ、御免な。折角天気が良いから散歩に来たってのに。今出してやるよ」

 優しく言った奴が、空気穴を開けた箱の蓋を開く。そうして中の猫を一匹ずつ大事に抱え、草の上へと放し始める。彼等全員の身体は包帯が巻かれ、半数以上には欠損も見受けられた。だがそんな辛い境遇にも関わらず、彼等は飼い主に揃って甘えた声を出した。

「こいつ等、俺達を助けてくれた……」

 失った左前脚を舐める、リーダー格の白黒斑の頭を撫でながら呟く。

「ああ。手術の直前に、あのポニーテールさんに頼んで保護してもらったんだ。どうせ警察や救助隊は人間優先で、こいつ等は放っておかれているに違いないと思ったから」

「だな」

 仮令英雄でも、言葉が通じないだけでいとも簡単に放置する。あまつさえ己が欲望のため、生きる権利すら否定するのだ、人って奴は。

「お陰で親と人生初の大喧嘩になったけど、絶対俺が引き取ってやらなきゃと思ってさ……なあ。正直に言ってくれ、シン。俺のした事は余計なお節介か?」

「?何故俺なんかに訊く?」

「だってお前、こいつ等の言葉が分かるんだろ。今更隠さなくたっていいさ」

 フッ。

「死んだ筈なのに今、俺とこうして喋っている事も、別に告げ口なんざしないさ。事情はよく分からないが、前と目の輝きが違う。取り戻したんだろ、本当のお前を」

「……喜んでいるに決まっているだろ。猫は昼寝の時か、若しくはそれと同じ位幸せな時だけしかこう言う顔をしないんだからな」

 ゴロゴロゴロ、うにゃあ。

「そうか。なら良かった」

 石に後脚を取られかけた一匹を支えてやりながら、ここからは独り言だがな、徐に前置きする。

「俺は中学の時からシン、お前に憧れていた。いつも何処か別の世界を見ているお前に少しでも近付きたくて、ずっと練習してたんだ……」

 前をふりふり行く尻を突き、ゆっくりと右手を握り締める。

「―――少し遅いかもしれないけど俺、獣医を目指してみる。またあんな状況になった時、一匹でも多くの動物達を救えるようになりたいんだ」

「フン、人間にしては悪くない心掛けだ。ま、その決意が続けばの話だがな」

 突き放したつもりだったが、はは、何故か笑われた。

「小気味良い位意地悪な奴」

 バタッ。草原に寝そべり、浮雲の流れる青空を仰ぐ。

「そうだ。顔見せのついでに教えてくれよ、お前の本名。何時までも偽名で呼ばれるなんて嫌だろ?」

「チッ」

 図々しい奴め。『ホーム』以外の繋がりなど鬱陶しい限りだ。だが秘密を握られた以上、下手に無視も出来なかった。


「―――アダム・ベーレンスだ、元キャプテン。いや、寅」

「!!?ああ、覚えていてくれたのか。急に呼ばれたから吃驚したぞ」

「フン、さっきの仕返しだ」


 柄にも無え。照れ臭くなって背けた視線の先にいた、片耳の欠けの子猫の腹を撫でてやる。お兄ちゃんのお陰でもう殆ど痛くないの、彼女はそう嬉しげに一声鳴いた。




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