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エルフ騎士とモブプリースト  作者: ヨシュア
3/3

リバーシブル俺


 リュミエールははっきり言って強くない。俺の中では。

 尋常じゃない力と尋常ではない生命力と頑丈な肉体を持っているので相手をするのが面倒、という話だ。

 まぁステータスでSTR(攻撃力)とVIT(体力値)をガンガン上げまくってるせいなんだけど。

 動きがわりと緩いのでシルヴィアが負けることはないだろう。

 必中スキルの『ローゼン・クロイツ』も物理攻撃扱いだから防御魔法で防げるし。

 俺はシルヴィアたちを横目で見つつ、集まってくるアンデッドを魔法で吹き飛ばしていた。

 魔力の底があんまり感じられないなぁ?無限ってわけじゃないだろうに。

 俺のステータスってどうなってるんだ?こういう場合目の前にステータスとかでたりさ……

「はっはっはっはっはっ!」

 リュミエールは高笑いを上げながらシルヴィアの斬撃を捌いている。

 高笑いをしているときはノっている時だ、あれはウチの子なのでよくわかる。

「――召喚・クリエイトスケルトン」

 シルヴィアが召喚魔法を放った。

 リュミエールの背後に魔方陣が展開し武装したスケルトンが出現するなり襲い掛かってきた。

 『賢者』なんて神聖(?)で高貴そうなジョブだけどスキル一覧を見れば高貴なんて欠片もないラインナップなのだ。

 そしてゲームの世界観的に天使召喚はない。サツバツ。この世は世紀末。

 ともあれシルヴィアがしたいことは解った。一瞬の隙が欲しかったのだ。

 リュミエールがそのスケルトンを大盾で粉砕する瞬間にシルヴィアの紺碧の髪が深緋へ変色した。

 瞬間、シルヴィアの周りの空気が変わる。

 剣先から炎の筋が走った。

 それにも一瞬惑わされたリュミエールに詰め寄ったシルヴィアは彼の仮面に手を当てた―――

「フレアバースト」

 轟音。至近距離からの破壊魔法は音を立てて爆発した。

「容赦がない!」

「これぐらい大丈夫でしょ?」

「た、たぶん…」

 答えて、俺は俺たちの『とんでもない設定』を思い出してシルヴィアを庇うように前へ割って入った。


 ビギィ


 空間が引き裂かれるような異質な音に背筋がゾワりとする。

 周りのアンデッドたちが石のようになって風化していく。俺から一定の範囲は守られたが建物であったガレキも石畳みも風化し白い砂になっ


た。

「ぐ、ぉぉ…ゆる、さんぞ…」

 煙幕が晴れて現れるリュミエールは顔を手で覆いながらも指の間から覗く目が鋭く睨みを効かせていた。

 その眼は人間の目ではなくトカゲのような目に変質しているのでちょっと気持ち悪い。

 リアルになると気持ち悪いな。設定考えたの俺だけど。

 仮面の下、普段は超絶美形のリュミエールだが、本性はこれだ。魔眼を持っている。

 その魔眼に耐えれるのは神の血肉を分け与えられたこのダークだけだ。設定盛りすぎだ過去の俺。

「リュミエールさま、もうお止め下さい。」

 俺は心からそう言いながら地を蹴った。その間にも石化の呪いが放たれるのだが効きはしない。

 ダークに効かないのはリュミエールも解っているはずなのに何故使うのだ?中身が俺じゃないからか?

 バグってるのか?ともかく、ともかくだ…

「さっさと正気に戻るか、リュミエール返せやぁぁぁ!!!」

 思いっきり俺はリュミエールをメイスで殴った。

 いい手応えがした。

 普通の人間だったら即死してそう。

 ぐらりと倒れかけるリュミエールの腕を掴むと光の粒子となって俺の体へ溶け込んでいく。

「消えた!?」

 そんな!イケメンが!

 なんて思った瞬間、身体が発光して変化していく。

 身長が伸びてごっつい鎧と大きな盾が再出現する。

 視界が悪いのは仮面のせいか。髪が風に靡いているのがよくわかる。

「ダークくんがリュミエールになった…!?」

「お、おお…?取り込んだってことなのかな?」

「なのかしら…?」

「うむ、実に馴染むぞ」

 俺は剣を抜いて天に切っ先を向ける。

 かるいなーこの剣。リュミエールの腕力が凄いだけなんだろうけど。

「で、どうしてリュミエールは闇の王の手先になっていたの?」

「…さぁ?」

 俺は首を傾げ何か解らないかと目を閉じる。

 記憶みたいなものはないんか。なさそうだな。マジかよ情報持っとけよ。

 シルヴィアの視線が生暖かい…ごめんなさい…。

「徘徊してるゴーレムや暴れてるアンデッドたちに命令はできない?」

「それも無理…か」

 というかさっぱりやり方が解らないともいう。

「あれ?でもなんか数減ってきてないか?」

「そういわれると…リュミエールがやっぱりこの戦いの核みたいなものだったのかしら?」

「まったく自覚できないな!ハハハ!」

「リュミエールらしいといえばらしいというか…ところで今からどうする?ダークくんがリュミエールになっちゃったけど街の人たち助けるの続けるよね?」

「最弱ヒールしか使えないんだが俺」

「聖騎士とは」

 だ、だって防御優先にしたからINT(知力)がないに等しいんだもん…。

 こころがしにそう。

 一人心が死にかかってるとなんだか無数の足音が迫ってくることに気づいた。

 振り返ると槍をもった兵士たちがこちらに警戒しながら近づいてきているではないか。

「まずくない?」

「…あぁ」

 ですよねぇ

 俺の姿はリュミエールで…その、敵だわ…。

「ちょっと殴り合ってから離脱して、あとで合流しましょう」

「そうだな」

 シルヴィアの炎の剣を受け流し盾を振るい、防御魔法で跳ね返される。

 兵士たちに歩み寄らせないよう、派手な斬撃を繰り返す。剣が痛むなぁ。

 あーでも、なんか、シルヴィアとこうやって剣を交えるのは楽しい。

 ちょっと憧れもあったんだよね、ゲーム時代にこういう感じのことするの。

 もちろん目の前のシルヴィアではなく、シンさんの別キャラである銀の騎士で想像していたが。

 憧れつつ自分のキャラは黄金の鎧の仮面男である。趣味と憧れは別物なのだ…。

 心が逃避し始めていたが、シルヴィアが深く踏み込んで来て手を翳してくる。

「フレアバースト」

 ドンッという轟音と共に目の前が真っ白になる。

 衝撃に身を任せて吹っ飛ばされた俺はそのまま瓦礫の中へ突っ込んでいく。

 頭がめちゃくちゃ痛いんですけど。

 まぁいいや、瓦礫で兵士たちから見えなくなっただろう。

 このまま離脱してあとで合流だ。

 …鎧着たまま匍匐前進ってハードすぎるんですけど。




   ◆◇◆◇




 途中、石畳の通りが崩れて地下水道へ通じていたのでそこへ入り込み体育座りでほとぼりさめるまで待っていた。

 時間を置いて這い出て探せばいいやと思って。

 ただ待つのが凄く苦痛すぎてどうにかパーティチャットのようなものが出来ないかとウンウン唸っていた。

 ゲームが違うキャラ同士でPT組めるのか?って話なんだが、魔法使えるしなぁ…。

 シルヴィアに声よ届けーっと念じていると急に繋がった。

『びっくりするわね。』

 本当に。

『お互いに念じてたから繋がったのかな。とりあえずそちらはどう?』

『今救助のお手伝いしてるから、もう少し待っててね。というかダークくんにはもう戻れないの?』

『おお』

 すっかり忘れてたわ。

「ダークにもどれー!」

 手を振るが、全然変わりません。悲しい。

「ログアウトできれば…キャラチェンできるのに…」

 ほわほわと体が輝きはじめる。

「え?キャラクターチェンジがキーワード的な何か?」

 身体が光に包まれて、ダークへと姿を変える。

『できたー』

 とりあえずシルヴィアに連絡を入れて合流だ。






 合流後、救援活動をし、感謝されて囲まれる前に街から逃亡した。

 目立ちたくないのだ。シルヴィアもそうだ。

 移動速度上昇の身体強化系の魔法はお互い持っていたので試したりしていると結構森の奥まで進んでしまった。

「真っ暗だわ」

 シルヴィアは照明を生み出す魔法を唱えて呟く。

「夜だなぁ。今日はここで休憩するか」

「ダークくん、お腹空いてる?魔法で食べ物と飲み物は出せるよ」

「飲食の概念があるゲームはこういうとき便利ですよね」

「ほんとよね」

 シルヴィアは水と燻製肉を生み出す。

 水はちゃんと入れ物に入って生み出されるが肉はそのままだ。

「…この辺はゲームと同じなのね。はいどうぞ」

「どうも。…うーん、リュミエールの目がこの世界でも使えたってことは、チート設定が結構再現されているのではと怖くなっている」

 ゲームとは関係のない俺設定なのだ、色々再現されているとバランスが崩されそうで怖い。

 だいたいロールプレイメンバーの設定が盛りに盛られていたからこそ偏りのない関係を築けていたともいう。

「…わ、わたし…賢者の石取り込むんだけど…この姿のシルヴィアはまだ取り込む前なんだけど…」

 遠い目をして呟くシルヴィア。

「賢者の石、見つかったら取り込むのかな」

「それはこの世界に失礼なのでは…」

 すごいパワーワードだ。世界に失礼。

「俺の身体、人間じゃないんだよなぁ…。最悪酸素あれば生きていけるし…この星が崩壊しても宇宙で放射線吸収して生きていけるし」

「まぁまぁ、中身はダークくんたちの生みの親である人間の烏くんなんだから大丈夫でしょ」

 そこで会話を切り上げて肉を食べる。

 美味しいなぁ、なんでも美味しく感じるのこの身体のせいかな…。

 でももともとの身体は砂の味しかしなかったしいいことか。サンキューダーク。

「自分でも忘れそうになる設定を思い返しておこう」

「盛りすぎよね…」

 俺は腕を伸ばし手首を捻る。

 カシュンっと勢いよく袖から隠されていた刃物が伸びた。

 柄の無いショートソード。腕から取り外せばカタールになる。

 ダークは幼少期にアサシンの叔母の手によりそういう扱いもできるという設定があるのだ。

 職業は聖職者だけど、闇のあるプリーストなのだ。かっこいい。

 ただ、幼少期修道院で修道女たちにニャンニャンされていたという設定はこれ自分の体になるととてもしんどいな…。

 そしてリュミエールの国の戦争に巻き込まれて死んで、神の血肉での蘇生実験の被験者にされたわけだ。

 誰だよこんな設定入れたの…高校の時の俺だ……。

「うーん、インベントリの開き方が解らないわ…どうしよう、お金とかないわね」

「こっちも同じく。腰にぶら下げてるアイテムしかない」

 というかベルトをし武器をぶら下げていたのかと初めて知った。ゲームの仕様をこっちで無理やり整えたのだろうか?

「まぁ…なるようになれ、よね…寝ようか。この身体疲れ知らずなのか疲労感ないけど」

「我々まだ慣れてないだけで疲労の程度の感覚が麻痺してしまってるだけかもしれない」

「ありえる…寝よう」

 森のド真ん中で寝るというのも物騒すぎるかもしれないが、感覚が鋭くなっているというのだろうか…大丈夫という気持ちが強い。

 実際ダークの肉は食べれないだろう、食べようとしたら逆に取り込まれるかもしれん…。

 シルヴィアもエルフであり精霊も使えるのでこちらも大丈夫だろう。

 さすがに横にはなれないので木の幹に体を預けて目を閉じた。






 不快感に目を覚ました。

 シルヴィアも何かを感じたらしい、飛び起きてマントを羽織る。

「ダークくん」

 目配せに俺は頷きながら立ち上がり同時に移動速度上昇の魔法を唱えて気配のある方向へ駈け出した。

 さっきから感じる気配は殺気だ。

 獣の放つ殺気だということまで解るのはダークの叔母によるアサシン教育のお陰なのかチート肉体のお陰なのか。

「微かに女の子の悲鳴も聞こえるわ」

「獣に襲われているってところか」

「急ぎましょう」


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