歪なカタチの花火
私は由依に意地悪をした。
「花火大会?」
「そう、そこで告白するのよ」
「こ、告白って別に私は…」
由依はモジモジしながらボソリと言う。
「先輩来年には大学に行っちゃうんだよ。しかも外の大学、そう簡単には会えないんだよ」
穂月学園、中高大一貫の共学校。私の親友・由依は四つ年上の高校三年生・潤美先輩に淡い恋心を抱いていた。
「それは、そうだけど、遠くで想えるのもいいかなぁ、なんて」
「由依……」
この奥手の女子に発破をかけようとしている。
「とにかく、私部活で知り合いだから先輩を誘うからね。ちゃんと告白するのよ」
「…ね、ねぇ、どうしても告白しなきゃダメ?」
「……、ダメ! こういうのははっきりさせないとダメなの」
「…わ、解った、がんばってみる」
そして、私、由依、潤美先輩と彼女と仲のいい野上先輩の四人で花火大会へときた。
「ね、ねぇ、縁、ほんとに告白するの?」
「当たり前でしょ。ちゃんと由依と潤美先輩を二人っきりにさせるから、その時にちゃんと言うのよ」
「…う、うん…」
そんな会話をしてから数分後、二人っきりになることには成功した。
「縁ちゃんはお友達想いなのね」
今回のこの計画に二つ返事で賛同してくれた野上先輩が私と二人木陰に隠れながら言う。
「そうですか…?」
「えぇ、少なくともここまでなら、ね」
野上先輩は物知り顔で微笑んでくる。
「…どういう意味ですか?」
「ごめんなさい、特に他意は無いのよ。それより、もし失敗したらその時は私は潤美を連れて行けばいいのよね」
「えぇ、お願いします」
言うと私は二人の方へと顔を向き直す。
「綺麗な花火ですね、先輩」
「そうだね、それにしてもあの二人はどこまでジュースを買いに行ったんだろう」
「ほ、ほんとですね」
由依はたどたどしく返事をしていた。そして、その姿はとても初々しかった。
そして、そのまま数分の沈黙が降りる。
「…あ、あの、先輩…」
意を決したのか由依は先輩の方を向いて言う。
「…ん…?」
「……あの、私、先輩のことが、好きです! 付き合ってください!」
そこからさらに沈黙が降りる。
「…困ったわね。どう答えたらいいのかしら…」
潤美先輩は困惑した表情をした後、
「でも、こういうのはちゃんと答えないとダメだよね」
そして意を決したようにしてから、
「…ごめん。君とは付き合えない」
「え、…す、好きな人がいる、とかですか?」
「うん。ほんとごめんね」
「は、…はい」
「ごめんね潤美、ちょっと遠くまで行ってたのよ」
「あ、あぁ、遅かったね」
いつの間にか野上先輩は二人の元へと近づいていた。私はそれに気付いて急いで近づいていく。
「…由依…」
「……縁…」
それから私と由依は先輩たちと別れ、二人で近くにあったベンチに座っていた。
「…っ…縁…っ、私っ…」
「うん、何も言わなくていいよ。むしろ思いっきり泣くといいよ」
「…ひっく…う、うん…あり…がと…」
由依はそう言うと私の胸の中に泣き崩れ、私はそれを抱きしめ、優しく髪を撫でてあげた。
そして、私は心の中で由依に謝罪した。
――ごめんね。私、潤美先輩に彼氏がいること知ってたの。でも、それを言わなかった。むしろ、玉砕してくれたほうが私の想いに気付いてくれるんじゃないかって…。
――由依は私のものだもの。今気付かなくてもそのうち気付いてくれればいいよ。それまで一番近くでずっと見てるから。