第四話 恐怖のM教(改訂版)~未完
第四話は、謎の宗教団体との闘い、となるはずでしたが、未完です。
未完ながら、発表させて頂きます。
◼第四話 恐怖のM教 A版(改訂版)
【1】
「あ、え、い、う、え、お、あ、お」
「か、け、き、く、け、こ、か、こ」
張りのある大きな、そして高い声が浜名湖高校内に響き渡った。四時をまわっているので、校舎には、特別に用のない生徒は残っていない。
声は、34HRから出ていた。放送部の黒岩と松井路代が、発声練習をしているのだ。
二人とも、放送部に入って、そう間もないが、もともと素質があるのだろう、声はほぼ出来上がっている。
「桂ちゃん、路代、やってるね」
そこへ、永野と池端、佐藤がやって来た。
「桂ちゃんの声、地学室まで聞こえたよ」
永野はそう言うと、「あ、え、い、う、え、お、あ、お」と、発声練習のマネをしてみせた。
「大きい声が出ればいいんだもん。それでいいのよねー」
池端が、黒岩達の肩を持って、そう言った。
「そう言う事」と、黒岩。「で、どうしたの、今日に限って、こっち来たりして」
「いえね、いつも大きな声が聞こえるからさ、桂ちゃん達はどんな練習を
やってるのかなーって思ってさ」
佐藤が、毎度の如くニコニコしながら言った。
「一ぺんやってみる?発声練習」
松井が、眼鏡をはずしてレンズをふきながら、言った。彼女は、眼鏡をかけていても、はずしていても、どちらでも似合っていることで、一部では有名である。
「あ、あたしは無理だに」
佐藤が首を振った。
「和子がいたらねえ、やってもらうだに」
永野が笑いながら言った。相曽の声、特に笑い声の大きい事は、学校中が知っている事である。
「あの娘、声が大きいでね」
松井も笑いながら呟いた。
その時、地学室の方から、バタバタと足音がした。安倍や伊藤の声に混じって、水野や相曽の声も聞こえる。
「噂をすれば何とやら、かな」
黒岩がそう呟いた時、安倍、伊藤、矢野、大道、大橋、馬場、水野、相曽、鈴木哲也、有吉大の大部隊が34HR前にやって来た。34HRは、放送部、そしてその向こうの職員室と隣り合っていて、教室前の廊下の窓からは、校庭が一望出来る。ちなみに、地学室と同じ三階にある。
「マジかよ哲っつあん、アリキチ」
「マジ、マジ、ほら、見てみろよ」
安倍達は口々にそう言いながら、窓をのぞき込んでいる。
「おっと、マジだ」
「信じらんねー」
「何で浜高くんだりまで来たんだいなー」
「ねえ、安倍さん、どうしたの?」
口々に感想を言っている安倍達に、池端が尋ねた。
「『アナタハ、神ヲ、信ジマスカ?』が来てるんだよ」
安倍が、彼女を振り返らずに答えた。
「何、それ?」と、黒岩。
「よく判らないだけぇが、何かの宗教の人だに」
そう答えたのは、鈴木哲也である。彼は、文芸部であるが、『宗教や人』の事を知らせに、わざわざ図書室から地学室まで上って来たのだ。
「えー、こんな所まで、わざわざ?」
永野はそう言いながら、伊藤の肩に両手をついて、上に伸び上がって窓の外を見た。
校門の前あたりに、二人組の白人がいた。ちょっと距離があるので人相ははっきりとは見て取れない。
「へえー、こんな事もあるのね」
「変だらー?」
彼らがそうこう言っているうちに、二人組の白人は帰って行った。
「あーあ、帰っちゃったか」
安倍はそう言いながら、壁に寄り掛かった。
「晴明、お前、あいつらに捕まって、話を聞かされたかったんだら?お前、そーゆーの、好きだでな」
矢野がそう言うと、横から馬場が口を出した。
「俺も好きだぜ、そーゆーのって」
「もし明日も来たらやあ」と、安倍。「すぐ降りてって、どんなもんか、よく見てやらまいか」
「それいいね。やろう、やろう」
馬場がすかさず賛成した。
「で、当然、話を聞かされるのは、大道だな」
「ホホホホ、矢野、おめえ、面白い事言ってんじゃん」
「大橋もだぞ」
「馬鹿野郎、何で俺がそんな事、やらにゃあいかんだ?」
矢野が、大道と大橋相手にマンザイをやり始めた。
「まーた、矢野くん、馬鹿な事言ってる」
毎度の如く、矢野にはあたりが強い黒岩が言った。
そして、次の日。
帰りのS,H,R,が終わると,安倍も伊藤も、そうじもそこそこに教室を飛び出し、三階のピロティーに出た。校門を見ると、予想通り、昨日の白人二人組がやって来ていて、チラシを配っていた。
「おー、来てる来てる」
馬場、大道、大橋が安倍達の後ろにやって来て、そう言った。
「あれ、大道、矢野は?」
「あいつ、掃除当番だに」
「よし、じゃあ、矢野が来たら、下へ行きまい」
安倍はそう言うと、白人二人組にもう一度目を向けた。
矢野が掃除当番を終えて、合流したところで、安倍達は下へと降りた。人数は、安倍に始まり、伊藤、池端、永野、矢野、相曽、水野、佐藤、大道、大橋、馬場、黒岩、松井、鈴木、有吉と、かなりの大人数にふくれ上がってしまった。
白人達の近くまで歩いて行って、少し離れた所から、彼らを観察した。この人数でそれをやると、まるで動物園にコアラを見に来た観光客のようだ。
その白人達は、別に宗教人らしいかっこうをしているわけでもなく、モルモン教徒のように、黒い教典を持っているわけでもない。ただ、手にした束のチラシを、適当に配っているにすぎない。『アナタハ神ヲ』云々も一言も言わない。相手にチラシを渡す時、かすかな声で「ドウゾ」と言うだけである。
「何だい、もっと面白い事をやってるのかと思っただに、これじゃあつまらんやあ。なあ、晴明」
伊藤はそう言ってから安倍を見て、思わず次の句が途切れた。苦虫を食みつぶしたような顔をしていたのだ。
「おい、どうしただ、晴明?」
「何でぇや、こいつら」
安倍は、伊藤の声が聞こえなかったかのような様子で呟いた。
そんな安倍の袖を、池端が軽く引っ張った。
「ねえ、安倍さん、何か感じない?悪感みたいなの」
「池端さんも判ったの?これが」
「裕子とジャキさんもよ」
そう言う池端をかばうようにして、安倍が前に出た。
「伊藤さん」
「おう、試してみるか」
安倍と伊藤は、そう言いながら歩き出した。後ろから相曽と黒岩と、これは中ば強引に、矢野に押し出された大道がついて来た。
安倍は先頭に立って、白人達に近づいていった。近づけば近づくほど、妙な悪感は強まって来た。ほとんど光の入らない闇の中で物を見るような苛立たしさがあった。
安倍の前にチラシを受け取った生徒の目つきが、突然変わった。半分眠っているような、トロンとした眼をして、ボンヤリと歩き出した。
(やばいかな?)
安倍がそう思った時には、五人が五人ともチラシを受け取っていた。
白人の「ドウゾ」という声を聞いた時、安倍の背中を、言いようのない、恐怖のような感情が走り抜けた。
(やばい!)
安倍は確信した。安倍の手には、チラシが、まるで電気を帯びているように不快な刺激を与えていた。
「みんな、そいつを読むな!」
安倍がそう言った時は、もう遅かった。チラシをもらった四人は、皆既にチラシの内容に目を通していた。
「なんでぇやこりゃ!」
突然、伊藤がそう喚いてチラシを放り投げた。
「どうしたの、伊藤さん」
そう尋ねる永野に、伊藤は手を振り振り答えた。
「今、チラシを途中まで読んでたら、突然、持ってた手に電気みたいな衝撃が来てやぁ」
「へえ、伊藤さんにも、それが判っただか」
安倍がそう言った。それに伊藤が答えようとした時、池端が安倍に向かって、言った。
「安倍さん、桂ちゃん達の様子が変よ」
「えっ!?」
安倍と伊藤が、黒岩達に目をやると、彼女達は、先刻の生徒のように、トロンとした眼をして、ボンヤリとつっ立っていた。
【2】
「ねえ、ちょっと、桂ちゃん、和子、大丈夫?」
池端が、黒岩と相曽を交互にゆすってみたが、寝呆けている様な反応しかしない。
「おーい、大道、どうしたの~?」
矢野が、ふざけ半分に、大道の頭を叩きながら言ってみたが、当の大道は、矢野の冗談には全くついて来ない。これを見て、さすがの矢野も、少々心配になって来た。
「おい、晴明、こりゃ一体どうなってっだ?」
矢野は、安倍を振り返りながら言った。安倍は、そんな矢野には答えずに、印を組んだ。
「唵薩縛怛他蘗多縛路吉多羯喚儜摩他羅々々(ラララ)吽弱莎訶」
次の瞬間、大道の体内から、光が爆発した。大道の体が二度、三度とけいれんした。この光は、安倍、伊藤、永野、池端だけしか見えなかったが、見る事の出来ない他の連中にも、説明不能の圧力は感じられるほど、強力な呪文であった。
しかし、光がおさまっても、大道の様子は、前と全く変わらなかった。
「あれっ?」
思わず、安倍は声を上げた。
「晴明、今、何をやっただぁ?」
と、伊藤。彼には、光が見えてしまったため、目が眩んでしまっていた。しきりとまばたきをしている。
「いやね、絶対浄化の聖観音真言を使ったんだけどやぁ、ほれ、この通り」
安倍は、大道をあごでしゃくりながら、言った。
「あ、白人の二人、いなくなってるに」
有吉が、門の所を見て、思わず大声で言った。
矢野が、大橋とー諸に門の外に出て、左右を見廻してみたが、人っ子ー人いなかった。湖東高校の門から左右十メートルは、全く陰になる所はない。今の短時間のうちに姿が見えなくなった、というのは、消えた、と言う以外に説明のしようがない。
「消えちまったに、あいつら」
矢野が大きな声で報告した。
「まいったな」安倍は、頭をかきながら言った。「奴ら、人間じゃねえぞ」
「じゃあ、何だい?」と、伊藤。
「判らん」
安倍は短く答えると、大道達が 取り落としたチラシを拾ってみた。ただの紙きれだ。先刻のチリチリとする感触はない。ただ、安倍自身が受け取ったチラシは、彼のポケットの中で、今だ不快な刺激を放っていた。
彼らは地学室へと戻って来た。大道、黒岩、相曽の三人は、相変わらずボンヤリとしているが、それでも、反応は普通なみには戻って来ている。
「忠内っつぁん、いないに」
職員室まで忠内を呼びに行った大橋が、戻って来て、言った。
「帰ったのかな?」と永野。
「いや」伊藤が答えた。「忠ちゃんのカリブはまだ駐車場にあった。学校にはいるら」
「学校にいるのなら、あと十分もしたら、忠ちゃんはここに来るよ」
安倍が、ニコニコしながら言った。
「何で判るだ?」
そう尋ねる伊藤に、安倍は、やはりニコニコしながら言った。
「それが忠ちゃんだからだよ」
それから約十分後、本当に忠内はやって来た。テニスウェアを着て、うっすらと汗をかいている。
「どうした、何かあったのか?」
開口一番、忠内が言った。
「なんでいきなりやって来て、そういう質問が出て来るだい」
毎度の事ながら、伊藤が言った。忠内の察しの良さには、いつまでたっても慣れる、という事がない。
「忠ちゃんなら、わざわざ呼びに行かなくても、察してくれるとは思ったけど、見事だな」
安倍は首をかしげながら呟くと、忠内に簡単な説明をした。単刀直入である。それでもちゃんと話が判ってしまう。忠内というのはつくづく不思議な男である。
「ふーん。そりゃ変な話だねえ」
忠内は、話を聞くと、大きくうなづいた。
「で、これが、そのチラシ」
安倍はそう言うと、自分が受け取ったチラシを、忠内に渡した。
「うわっ」
思わず忠内は声を上げた。彼にも、不快な刺激が感じられたのである。
「こりゃひどい」
「だら?でやぁ、これが大道達が読んだ奴」
「――ふんふん。なるほど、何も感じないね……。どうやら、一度目を通すと、その人に丸ごとうつってしまう、弱い呪いがかけられているみたいいだね」
「やっぱり」
「呪い!?」
伊藤と永野が口をそろえて言い、眉をしかめた。
「呪いって、どんな呪いなんですか?」
池端が、大道達に心配げな視線を送りながら尋ねた。
「恐らく、行動を束縛、あるいは強制するようなものだろうな」
忠内が答えた。その言葉を聞いた矢野と馬場が、同時に言った。
「"ギアス"の呪文だ」
「ところで、何て書いてあるだい?」
伊藤が尋ねた。
「あれ、伊藤さん、途中まで読んだんじゃなかったの?」
そう言う永野に、伊藤は首を振って答えた。
「それがさ、一文字も覚えてないんだ」
「なるほど」と、忠内。「呪いの影響を受けない人間の記憶にはひっかからないようになってるんだな。――で、内容はっと」
忠内は、声に出して読んでみた。まだ目を通していない、安倍のチラシである。
「『あなたは神を信じますか?信じる者だけが、永遠の生命を得られるのです。あなたも、永遠の生命を生きてみませんか?この話に興味のある方は』」
―― 未完 ――
◼第四話 恐怖のM教 B版(改訂版)
【1】
「あ、え、い、う、え、お、あ、お」
黒岩の大きく高い声が、四時をまわった浜名湖高校内に響き渡った。放送部である彼女は、ほぼ毎日、この発生練習をやっている。彼女の声はよく通る。34HRで出している声が地学室まで聞こえるほどだ。その横で、松井路代が本を読んでいる。
そこに、池端、永野、佐藤がやって来た。
「桂ちゃん、やってるね」
池端はそう言うと、手近な椅子に座った。
「それにしても、桂ちゃんの声、よく通るね」永野が笑いながら言った。「地学室にいても聞こえたよ」
「大きい声が出ればいいんだから、いいの」
と、黒岩。
「ところでさあ」と、佐藤が毎度の如くゆっくりと言った。「路代、ここで何やってるの?」
「別に。桂ちゃんが終わるのを待ってるだけだに」
「だったら、地学室に来ればいいだに」
永野がそう言うと、松井は黒岩の方を見ながら、笑って言った。
「だって、桂ちゃん一人にしたら可哀そうだら」
「ところでさあ」黒岩が、突然思い出したように口を開いた。「カズコと水野はどうしたの?」
「地学室に居るよ。マンガ読んでる」
池端がそう答えた時、突然地学室の方向から、大勢の人間の足音が聞こえて来た。永野が廊下に顔を出してみると、安倍、伊藤、矢野を筆頭に、馬場、大橋、大道、水野、相曽、あげくは文芸部の鈴木と有吉までが一緒になって、34HRに向かってやって来る所だった。
「マジでモルモン教のか?アリキチ」
「モルモン教かどうかは知らんけど、何かの宗教の奴なのは確かだに」
「何でそんなのが、わざわざ浜高まで来るでぇや?」
「俺に聞かれても判らんよ」
彼らは口々に言うと、34HR前の窓から前庭をながめた。
「ちょっと、伊藤さん」永野が、伊藤の肩を突っついた。「一体どうしたの?」
「『アナタハ神ヲシンジマスカ?』が来てるだよ」
「何、それ?」
「ほら、街中でよく通行人をつかまえて布教する、ヘンな外人がいるだろ、あれみたいな奴さ」
伊藤のかわりに馬場が答えた。
「あーあ、もう行っちまうみたいだぜ」
矢野が、乗り出すように見ながら、言った。
「なーんだ、つまんないの」
水野と相曽が同時に呟いて、戦線を離脱した。
「くそー、俺、まだあーゆーのに捕まった事ないだよなー」
安倍がくやしそうに言った。
「お前、おーゆーの、好きだやあ」
伊藤が笑いながら言った。
「俺も好きだぜ」と、馬場。「晴明、今度、あいつらが来たら、話を聞きに行こまい」
「いいねえ、行こう行こう」
「アホじゃねぇかお前ら」
矢野が呟いた。それを聞いて、大道が突っ込んだ。
「そういうお前も、けっこう好きだら、あーゆーの」
「まあな。でも、今度あいつらがきたら、話を聞くのはお前だぞ、大道」
「ホホホホホ、おもしろい事、言ってんじゃん」
「ヨッちゃんもだぜ」
「何で俺がそんな事せにゃあいかんだ?」
矢野が、大道と大橋相手に漫才をやり始めた。
「まーた矢野くん、バカな事言ってる」
後ろで、毎度の如く矢野には当りのキツイ黒岩が言った。
――― 未完 ―――
◼第四話 恐怖のM教 C版(改訂版)
【1】
「あ、え、い、う、え、お、あ、お」
黒岩の大きく高い声が浜名湖高校内に響き渡った。四時をまわっているので、校舎には、特別に用のない生徒は残っていない。
黒岩は、35HRにいた。放送室から一番近いこの教室が、放送部の発生練習場なのである。その横では、松井路代が本を読んでいる。
そこに、池端と永野、佐藤がやって来た。
「桂ちゃん、やってるね」
池端はそう言うと、手近な椅子に座った。
「それにしても、桂ちゃんの声、よく通るね」永野が笑いながら言った。「地学室にいても聞こえたよ」
「あ、ほんと?」
黒岩が、ちょっと照れながら言った。
「でも、そういう練習をしてるんだもん。それでいいのよねー」
池端が黒岩の肩を持って言った。
「ところでさあ」黒岩が、話題を変えた。「どうしたの?今日に限って、こっち来たりして」
「えーっ、別に大した用はないんだけどぉ。」佐藤がニコニコしながら言った。「桂ちゃんがどんな練習してるのかなーって思ってさ」
相変わらずおっとりしている。
「ジャキさん、一ぺんやってみる?」
黒岩が笑いながら言った。
「えー、無理だよお」
「和子がいたら、やってもらうのにねぇ」
永野が笑いながら言った。相曽の声、特に笑い声の大きさは、学校中の知る所となっている。
――― 未完 ―――
続きを書き足せば、とも思ったのですが、二十歳の頃と同じ雰囲気の文章は、とても書けなかったので、断念しました。