海が見える方へ
会話と運転状況を交互にしてみました。
「身体の相性って、あるよね」
「いきなり、だな」
交差点にかかる。信号は黄色。静かにブレーキを踏みながら、左折レーンに入る。
「私たち、かなりいいよね」
悪いとは思わないけど、得意の苦笑いを浮かべる。
「・・・そうですね」
「何? 今の間は? それに丁寧語」
信号は赤から緑。左折して直進。
「星占いだと、恋愛面の相性は最悪だったじゃない? 私、けっこう落ち込んだのよ」
「占いなんて、当てにならないもんだろ」
まだしばらく直進。
「男の人って、わざと無口になるときが」
「照れくさいもんなのさ」
言わせずに返す。
「ずるい」
長く緩やかなカーブ。
「よくケンカするのに、まだ一緒にいるね」
「そうだな」
そろそろ腐れ縁かもしれないが、惰性だとは思わない。
ゆっくりと右折。
「ときどきね、すごく不安になる。嫌われたんじゃないか、って。大丈夫って分かってるのに、本当に大丈夫なのかな、って」
インターチェンジが見えてきた。ETCカードは挿してある。
「だからね、確かめたくなるんだ。つまんないことかもしれないけど、そういうときは、ちゃんと答えて欲しいの」
高速道路を南へ、海が見える方へ。
「私、あなたを愛してる」
アクセルを踏み込む。背景が加速してゆく。
「あなたは?」
16/9/16 Fri. ~ 16/10/20 Thu.