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バクルー王の言葉に、プリシラは何度も頷き、両手で顔を叩くと
「私!やります!もともとバクルー王の義手を作るために、準備していたので…一、一ヶ月!いや!三週間ください。必ず作って見せます!」
と言って、部屋を走って出て行こうとして、ハッとしたように立ち止まり、
「バクルー王!体のサイズを測りたいので、なるべく早く私の部屋へ、おいでください!」
叫び声に近いような声を上げながら、慌ただしく部屋を後にした。
プリシラの様子を…バクルー王は笑いながら
「仕事になると、突然言葉遣いが変わりやがって…。」と言って、プリシラの背中をいつまでも見ていた。
そんな大きな背中を…
「バクルー王、どういうつもり…」とエリザベスの不安げな声が叩いた。
ゆっくり、振り返ったバクルー王にエリザベスは、
「プリシラ様を不安にさせたくなかったから…言えなかったけど…。私はまだ納得していないところがあるわ。」
そう言って、エリザベスはソファに座り、
「あなたの問いに…確かに2万の兵を動かすことと、この時期の天候を考えると…約三ヶ月後ではないかと、答えたけど、それはあくまでも、2万の兵を動かすというのが前提。」
睨むようにバクルー王を見ながら…エリザベスは続けた。
「カノン砲を未だに出してこないサザーランド国は、一気に鎮圧を狙っていない…それは狙いは国ではなく、バクルー王…あなた自身ではないかと言っていた話は…どうなったの?21年前、アルフォンス王は約1万の兵を囮のように使い、暗躍したという経過があるのよ。少数精鋭で、バクルー王あなたひとりだけを狙うという手段は、ゼロではないとわかっているはずなのに…どうして…」
…と言ってエリザベスが、バクルー王を見た。
エリザベスの考えていることが、わかったのだろうか…バクルー王は少し笑いながらこう思った。
(サザーランドの侵攻が近い今、エリザベスの魔法による腕の再生を俺が断り、なぜ時間が掛かる義手を選んだのかという事を聞きたいのだ。エリザベスは、幼い頃から賢王と言われた女王だ。それは魔法で何でも片付けると言うやり方ではない、むしろ綿密な計画をたててやる。だから、気になる点があれば片付けておくべきだと思っているのだ。些細なことでもクリアにしておきたいんだろう。迷いが勝敗を左右することをエリザベスは知っているから、俺がはっきりと理由を言わないと、こいつのことだ…俺が寝てる間に魔法で腕の再生をやりかねない。)
そう思うと、バクルー王は可笑しくなって腹を抱えて笑い出し、その笑い声にエリザベスの眉がハの字になった。それがまたバクルー王には、可笑しくてしかたなかったが、笑いを噛み殺しながら…
「おまえは、サザーランドの侵攻が近い今、時間が掛かる義手をなぜ俺が選んだのか…気になるんだろう。」
エリザベスは顰めた顔で頷きながら…
「アルフォンス王は狂っているわ。でも、バカじゃない。その手腕は、知っての通りよ。プリシラ様にナタリー様の仇を討たせたいという思いがあるかもしれないけど…サザーランドに負けたら、意味がないわ。情に流されてここぞと言うときに、判断を誤ることだけはしたくない。大勢の人の命が関わることならなおさら…だから、聞いておきたいの。その判断を。…勝算がなければ悪いけど…魔法を使わせてもらうわ。」
「俺が寝てる間に、腕を再生するのか…」
「ほんと…疲れる御仁だわ。」
バクルー王は、笑いながら、剥れたエリザベスの顔を見た。
(こいつは…俺と似ている。だが…エリザベスは、俺と違って…怯えることなく恋をした。だが…愛する人の前で、冷酷な君主の顔を見せる時は…つらいだろう。おそらくエリザベスは国を守り、愛する男と共に生きる道を日々模索しているのだろうなぁ。そんなエリザベスだから…わかってくれるだろう。俺らしくもない、この計画を…)
「俺はサザーランドのことがなければ、この腕はこのままで…義手もいらないと思っていた。それは自分の犯した罪や過失を償う贖罪の為だからじゃない。俺は国を守る為なら、これからも人を、いやそれが女でも子供でも利用する。…人としては最低だがなぁ…だがそれが君主の宿命だと思っている。」
そう言ったバクルー王をエリザベスは表情を変えず、じっと見据えた。
長い時間ではなかったが、見つめあうような形で2人はいたが、バクルー王がようやく視線を外し、伏し目がちに少し視線を下に向けると…柔らかい笑みを口元に浮かべ、今度はバクルー王からエリザベスへと視線を合わせた。
その視線に…いやその微笑みに、ただ…大きく目を見開き言葉を失い、エリザベスは唖然としてしまった。それは、いつもバクルー王が浮かべる、腹に一物を持っているような笑みではなく、その笑みは優しげで…そしてなぜだか寂しげだったからだ…堪らずエリザベスは俯くと、両手を握り締め小さな声で「何よ…その顔は…」と、言い放つと、バクルー王は困ったように笑い…失った自分の左腕へと視線を動かし
「そんな生き方しか出来ない…どうしようもない男を庇って、矢を全身に浴び、俺の名を呼んで死んでいった女は、ナタリーと同じように見えた。俺は恋というのが、恐ろしかった。あの女を…ナタリーを…アルフォンス王を変えた恋が……だからあの女から狂おしい思いで、求められていた事を感じながら…俺は見ないようにしたんだ。俺は……恋なんて出来る男じゃない。」
バクルー王は、ふっと息を吐くと
「あの時…俺を助けた女の思いに答えられるものを俺は持っていなかった。だから心のかわりに左腕を…やった。」
「心のかわりに…って…バクルー王…あなた…「だから…左腕を再生するつもりはない。」」
エリザベスの言葉を遮ったバクルー王に、
「…あなたって人は…」と小さく呟くと…バクルー王の左腕を見つめ、そっと手を伸ばし…バクルー王の左腕に触れ
「素直じゃないわね…彼女に惹かれていたんでしょう?利用しようとしていたけど、…愛してしまったから、その左腕を剣で切り落としてでも…あの女ひとを抱きしめてやりたかったんでしょう。」
「…さぁ…どうだろう。」
そう言った声は切なく響き、バクルー王は微笑んだが、エリザベスのその言葉から、その視線から逃げるように……眼を伏せた。
エリザベスも…そしてバクルー王も…お互い、2年前のあのサザーランドとの戦いに心が飛んでいた。
だから…
今度は気が付かなかった。
離れで、バクルー王が来るのを待っていたが、なかなか来ないバクルー王に、痺れを切らして、扉の前に立っていたプリシラを…
プリシラは、扉の前で座り込むと
「バクルー王は自分で…」と言うと顔を膝につけ…「左腕を…」と言ったが言葉が出てこなくて、ようやく出て来た言葉は…
「まただ…私って、ほんとに間が悪いなぁ…」
笑ったつもりだった、だが唇が震え口角は上がらず、震えを止めるように唇を噛み…耳を覆い…今聞いた事を忘れようとしたが…プリシラの耳は…また再生した。
『素直じゃないわね…彼女に惹かれていたんでしょう?利用しようとしていたけど、…愛してしまったから、その左腕を剣で切り落としてでも…あの女ひとを抱きしめてやりたかったんでしょう。』
『さぁ…どうだろう…。』
「左手を再生しないと言うことは…今でも…その女ひとを……だから義手?」
と口にして…プリシラは頭を横に振り…
「…あの人が誰を愛していたって…関係ない…」
そう、関係ない。関係ないよ。私には…関係ない。




