とりあえず彼女
彼女は、水を飲むと、
一瞬で死んだ。
ぼくが殺したのだ。やった。
と、ぼくは手を上げたいようなめためたする気分だ。
そのぺたんとした幽霊じみた口と、たしかにかわいいその顔の輪郭の印象が、
ぼくをこういうふうに彼女をやつざきにしようとまで思わせたのだった。
死ね死ね死ね死ね。
彼女のかたまりごと、死んでしまうがいい。
そう思う。
彼女の死体はしゃべる。
「よくもわたしを殺してくれたね?
ね。」
そして、その彼女はぼんやりと抽象のような感覚で、
たしかに心の線のようなものをきらりと断絶させているのだった。
きらめいたその線は、透明を煮詰めたような、そんなきらびやかな感情。
緑があたりを染めるような感じ、
といえば大げさかもしれないけど、
そして、彼女は言う。
「私を山に埋めてね。
山に埋め埋めてね? そうしたら、
埋め埋めしてね。」
そして、もはや亡霊の思考回路だけとなった彼女は、
逃げるように白くこちらを見るのであった。
その目は、目じみていた。
ぼくは言う。
「どこに埋めてほしいんだ。」
するとその彼女は言う。
「じつは、わたしは7番の星に住んでいる王女。
あなたを埋めに来たのは、わたしなのです。
そういう。」
そして、彼女は自身なさげにうなだれるのだった。
大げさなそのうなだれかた。
彼女は自身を切り詰めるように、たしかにうなだれているのだった。
改良的なそのうなだれ。
もどきをもどきつつ、そのうなだれはうなだれていた。
ぼくは
彼女の首を切る。赤い血があたりを染める。
凛冽な気配と、急に彼女を霧が染めるようなふわりとしたベールのような蒸気。
倒れそうなその感じ。
それはあきらかに少し吐き気がするような感覚だった。
目はあからさまなのだ。
彼女の首を、ぎりぎりと切っていく。ぞぉーと、切っていくのだった。
みと、と、血が流れる。
そして、変にしなだれるような、妙なその首の酩酊のような感じが、
ぼくを抑える。
ぼくは彼女の口のなかにナイフを入れる。
すると、すでに血を流している彼女は
じつは口のなかにも血を出しているのであって、ナイフはぽつぽつと血まみれになっていく。
ゆっくりくるりとナイフをまわしていくと、例の、また緑がぼくの頭のどこからへんを、
どことなしに緑りつづける。
それは、つづるような炸裂を、りんと呼び覚ますような感じ。
彼女は、けっこう眠っているときでさえゲーム廃人なのだった。
そして、ぼくはその思いでが血となって地味に噴き出るその彼女らしいぽつりと
した凛冽じみた血を、ひたすらナイフを伝っていくような感じが、
すごい気がする。
量が、意外とすごく、ぼくは食べ残しをみるようにいらいらとしてしまう。
目は、フィルムのように、彼女にべたべたと貼られているようだった。
つまり、それだけ、ぼくはその彼女を見ているのである。
ナイフを、その先を首に向け、内側からわけへだつように、むく、と、
その皮を切っていく。すると、彼女はこつこつ血を流す。
ぼくはいっきに押すと、しゅんと彼女は死ぬのだった。