始まりの街
外から聞こえるザーザーという音で、ボクは目を覚ました。暗闇の中、雨音がボクを不安にさせ、布団の中を僕の手が駆ける。となりに確かな温もりを見つけて、ボクは少し安心した。
「コウタ?どうしたの?」
「あっ、ゴメン。起こしちゃった。」
「ううん、気にしないで。それよりコウタ凄い汗かいてるよ。」
「いや、だ、大丈夫だ、だよ。」
ボクはヒロの腕の中にいた。
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「落ち着いた?」
「うん......。」
ボクはあれから暫く泣いていたようだった。カーテンの隙間から微かに光が射して、長い夜の終わりを告げる。
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ここレングストンは炭鉱の町だった。エネルギー革命に伴って次第に衰退し、現在ここに住む者は殆どいなかった。
父はボクが生まれる前に消え、母もボクが2つの時に死んだ。 ボクは父の妹の家に引き取られた。ボクは父の妹であるサテツおばさん、いとこのヒロの3人で暮らしている。
サテツおばさんは魂の抜けたような人だ。いつもぼーっとして、空を見ている。ヒロは同い年で、優しくて、ヤンチャで、全く兄弟そのものだった。
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この世界では学問の他に、四元学を学ぶ。かつてこの世界は四元という力で形成されていたそうだ。残念ながら、今では四元を扱える人間はいないらしい。
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レングストンには学校がなく、隣町のポルックスにコウタと2人で通っている。ポルックスは大きな都市で生徒数も10,000人を超える大きな学校があった。学校の生徒の多くはポルックス育ちの子らで、隣町出身のボクらは少し煙たがられた。特にボクは四元学でトップだったし、ヒロも座学ではトップだったから、体裁を気にするポルックスの連中はボクらが少々目障りだった。
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ある日の放課後、ボクはとなりのクラスのジンにリヴァイル川に来るよう言われた。こういう事は慣れっこだったし、ボクも武術には自信があったからボクを止めるヒロの声を無視して、1人でリヴァイル川に向かった。
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ボクはヒロと違って人付き合いが上手くなくて、学校でも1人でいた。誰に喧嘩を売るわけでもないけど、生来の素っ気なさからか、気づくと敵が沢山いたようだった。対して、ヒロはその優しい物腰とで誰からも好かれていた。
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リヴァイル川にはジン1人しかいない。ボクは少し呆れてしまった。ボクとサシでタイマンはろうなんて、ジンは相当なバカだったようだ。
「ボクに対して、キミ1人で大丈夫?明日、学校で笑われるような、無様な姿になっても知らないよ?」
「............」
「用件を聞かせて貰おうか。どうせ、いつも通りボクが目障りとか、そんなんでしょ?」
「............」
「あのさぁー、そんなんだと拍子抜けっていうか、帰っていい?」
「............」
ボクが踵を返した瞬間、ボクとジンの周りが火に囲まれた。
「なにコレ?」
「............」
「もしかして、キミの仕業?」
彼は小さく頷いて、刹那、ボクに向かって火の玉を放ってきた。とっさでそれを躱すが、次々に放たれる火の玉にとうとうボクは逃げ場を失ってしまう。ボクは火の玉から逃れるために、川に飛び込む事を決意した。
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実はボクは泳げなかった、レングストンは炭鉱の町、海もなければ川もなかった。リヴァイル川は流れは殆ど無いものの、想像以上に深かった、体は沈み、暗い闇の中に落ちていった。
『父さん、母さん、ヒロ、サテツおばさん......。』