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第三話・彼は なぜ 無職になったのか?

「キキキ。よく来たなブレイブ。ここが貴様の墓場よ!」

『イマイマイマ』

 高らかに怪人が宣言すると、ブレイブの周囲を下級戦闘員ツカイマーが取り囲んだ。じりじりと迫る包囲網に対し、ブレイブは不敵に笑う。

「行くぞ悪党ども!」

 四方八方から襲いかかるツカイマーをブレイブは次々と叩きのめしていく。

「焼き払ってくれる!」

 しびれを切らした怪人が右手から火炎放射を放つ。だがブレイブはひらりと空中に舞い上がり、かわしてのけた。

「ツカイマー! 奴を捕まえろっ!」

『イマイマイマー!』

 号令と共にツカイマーはどこからともなく分銅のついたロープを取り出し、ブレイブめがけて投げつけてくる。

 しかしブレイブはひるまない。

「ブレイブウィップ!」

 素早い蹴りから生み出された衝撃波がロープごとツカイマーたちをなぎ倒す。さらにブレイブは勢いのままに怪人との距離を詰める。

「キキー! 喰らえ!」

 至近距離で放たれる火炎、だがブレイブは避けることなく逆に拳を突き出した。

「ブレイブウェッジ!」

 拳は炎をかき分け、怪人の胸に鋭く突き刺さった。

「キキー!」

 吹き飛ばされ、よろめく怪人にトドメを刺すべく、ブレイブは右手に力を集中させる。

「悪を断つ! ブレイブスラ……」

 が、しかし、跳躍した瞬間、ブレイブの首に一本のロープが絡みついた。

「くっ! これは……」

「イマイマイマ!」

 地面に引きずり落とされたブレイブが振り返ると、そこには一体のツカイマーが立っていた。

「バカな、ツカイマーはさっき全員倒したはず……まさかコイツ、気力だけで立ち上がってきたというのか?」

「イマイマイマ!」

「そうか……ならば叩き潰すまでだ!」

 思わぬ強敵の出現にブレイブは勇気の炎を燃や――。


「えー、なんでツカイマー?」

「イミわかんねー」

「あたらしい魔人は~?」

「おなかすいた~」

 子供たちの不平にブレイブこと風見鶏翔人は仮面の奥で眉をしかめた。

「いや、お前らが新しい話って言うからこっちも必死に考……思い出して話してるんだぞ」

「でもツカイマーにやられるブレイブ弱いじゃん」

「だっせぇじゃん!」

「ダッシュブレイブが助けに来なかったの?」

「おなかすいた~」

 朝のランニング中に思いついた会心の展開の評価がこれである。

「いや、このツカイマーは実はものすごい力を秘めていた奴なんだ。この戦いの後に怪人に進化するという話がだな」

「またせってーでたよ」

「せってーせってーぎゃはははは」

 軽く怒りすら湧いてきたが、翔人はため息でこれを押し流した。小学生になったばかりの連中を相手に大人げない態度はよくない。どうせ後で虚しくなるだけだ。

「……が、そのツカイマーも俺の前では敵じゃなかった。ロープを引っ張って空中に放り投げ、怪人サラマンドレッドにぶつけたんだ。奴の自慢の火炎放射ハンドはこれで壊された。そこですかさずとどめの一撃! せ~の」

『ぶれいぶすら~しゅ』

「………………とおっ!」

 いつも通り華麗にブレイブスラッシュを決めて見せると、子供たちの拍手が空き地に響いた。

「やっぱりブレイブがいちばんツエーよ!」

「ツカイマーなんかよえーじゃん」

「ブレイブスラッシュ~」

「おなかすいたー」

 あっさりと納得した子供たちを見て、翔人はお話を作る難しさをひしひしと感じる。これから三話分かけてこのツカイマーを盛り上げていく予定だったのだが、まあ仕方ない。

「……お菓子、食うか?」

『食う!』

 翔人は「トロルチョコ黒蜜きなこ味」を配り、とりあえず話を切り上げることにした。

 塾に向かう、と言って去っていった子供たちを見送ってから、翔人は帰り支度を始めた。仮面を脱いで夕暮れの空をぼんやり眺めていると、不意にじんわりと虚しさがこみ上げてきた。

 ある言葉が記憶の底から思い出される。

「お前さんはヒーローにはなれん。今のままではずっとな」

 所属していた事務所で翔人にアクションのいろはを叩き込んだ大先輩の言葉である。

「俺は誰よりも動ける! あんたよりも!」

 問題を起こして事務所を飛び出した時、翔人はそんな捨て台詞を吐いた。今ではひどく後悔しているが、だからといって完全に間違っているとも思っていない。

「ブレイブウィップ! ブレイブウェッジ!」

 フォームもポージングも完璧だ。これだけ出来る奴は事務所内にもベテランを除けば自分だけだった。今に事務所から連絡が来る。そうすれば今度こそヒーローになれる。そう信じ続けて半年が経った。

「ブレイブスラッシュ!」

 翔人はもやもやした気持ちを断ち切るように、手刀で空を裂いた。「…………帰ろう」 

 今日はどんな言い訳をしようか。家で待つかなめの尋問への対策を練りながら、翔人は帰路に着いた。

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