ベル産地ってどこ?
「ただいま〜」
「あっ、あさみお帰り〜」
「あさみ殿お帰りでおじゃる」
光が変な語尾で出迎える。
…100歩譲ってそれはまあ、よしとしようではないか。
問題なのは光の服装である‼︎
「お母さん!どうしたの??これ!?」
「何が??」
「何がじゃないよ!」
「…あぁっ、お父さんの服、引っ張り出して来たんだけど、ちょっと光君には小さかったかしら??」
小さいってもんじゃない。
その着せられたらしいスウェットの上下は、手足はぱっつんぱっつんでお腹は半分以上出ている。
おまけに上のスウェットには「ベル産地」とナゾのロゴが入っている。
「あ、姉ちゃんお帰り〜」
「アニマ〜ル」のトレーナーを着た弟が2階から降りてきた。
「いらっしゃいませ〜」
「なに突っ立ってるの?こっちよ。」
「あっ、今行くでおじゃる」
光は初めて入るらしい、服屋さんに少々戸惑って居た。
そんな事には目もくれず、私はとりあえず適当に大きめサイズの服を何点か選んで、光に持たせた。
「はい!とりあえずこれ、向こうで着てきて!」
「???」
光を試着室に押し込んだ。
いつまでもつんつるてんの「ベル産地」を着ていられては困る。
「…あさみどの?これで良いのじゃろうか??」
「…」
…。
「…まあ、ベル産地よりはマシか?」
「すみません、これ着て行きたいんですけど…」
「かしこまりました、ではタグだけ外させていただきますね。」
「あっ、あさみ殿?」
「まったく、あんたに貢ぐ為にバイトしてる訳じゃないんだからね。」
そう言って、あさみはレジに向かった。
「ありがとう。」
そう言うと光は着てきたスウェットを袋に入れた。
チノパンに紺のネルシャツ。
まあ秋葉原にいたら完璧にあちらの方だが、問題ないだろう。かろうじて、シャツは出させたし。
光は楽しそうに商店街を歩いている。
全てが新鮮なのだろう。
目を輝かせて、あさみに色々と質問してくる。あさみはうっとおしがりながらも、丁寧に光の質問に答えてあげた。
なんだか、小さい男の子に教えてあげるみたいで、あさみは少し気分が良かった。
「あさみ殿!あさみ殿!」
「はいはい、今度はなに?」
「このお店は何を売っているのじゃ?」
「…ああっ、ここは質屋。要らない物を売ってお金に帰る所よ。あっ、「ベル産地」出してみる?」
「いや、これはかってに出してはいけません‼︎」
「…冗談よ。そもそも売れないわよ。」
ショーウィンドウを見ると、ブランド物の財布やキーケースが格安で並んでいる。
あさみが何気なく、見渡していると…
「…げっ!!」
「?どうしたのじゃ?あさみ殿」
「ああっ、何でもない!気にしないで〜」
「?」
…4ヶ月前に初めて雄太君に買ってあげたキーケース。
買った時には、3万円した。貧乏女子高生には痛い額だったが、雄太君に喜ぶ顔が見たくて、バイトして初めてあげたプレゼント。
4ヶ月で1万も下がるとは…。
しかも未使用…。
世知辛い世の中…。
あさみはひとり世間の非常さをかみしめていた。
「はっ!」
「…!今度はなんでごじゃる!?」
急にせわしなくショーウィンドウを見始めたあさみに怪訝な顔で、光が尋ねる。
「あー、良かった!」
「?」
流石に1週間前に雄太君にあげた財布は並んでいなかった。
未使用新品のがあったら、こっちで買っても問題ないんじゃ…。
いやいや!気持ちの問題よ!あさみ!リサイクルショップで買った物を好きな人にあげるつもり!?
「…あっあさみ殿?」
明らかに挙動不振気味なあさみ光が声をかけようとしたその時、2人男女が店から出てきた。
「思ったよりは高く売れなかったはねえ」
「未使用なんだけどね〜?まっこれで美味しいもでも食おうぜ?」
「嬉しい〜!前から行きたかったお店があるの!ありがとう〜、雄太♡」
そう言うと女は男の腕に自分の腕を絡めた。
あさみと目が合ったのはその時だった。
「…何か?」
女は男の腕にもたれながら、訝しげにあさみに尋ねた。
しかしあさみは一向に何も答えない。
ただ、黙って2人を見ていた。
「ちょっ!あんた人の話聞いてんの?」
女が今にも怒鳴りだそうとした時、
「…あさみ」
男がゆっくりと口を開いた。