クレナイノブタ
あさみは次の日の放課後早速図書館に行って源氏物語について、調べ始めた。
正直、授業で少し習った位で、源氏物語について、あまり詳しくはない。
生田夏真君が好きで、主演の映画を観に行ったが、実は途中で寝てしまった。
すごく、キレイな映像だった事は覚えているんだけど…。
夏真君の切ない表情がカッコよすぎてキュンキュンしてた事は覚えているんだけど…。
「なるほど…紫の上って幼少の頃は若紫って言われていたのね」
あさみは昨日の彼の言葉を思い出す。
あの後、もう一度おじいちゃんの部屋に戻った。そこに開けっ放しだった巻物を見て、一同目を疑った。
それはやはり、源氏物語の絵巻物だったらしく、何やら文章と、所々挿絵が描かれていた。
問題はその挿絵である。
光源氏がおそらく描かれてあろう部分だけ、すっぽり抜け落ちているのである。白抜きのように輪郭だけが残っている。
まるで、源氏物語から、光源氏が抜け出したかのように…。
この青年は本当に光源氏…。
ゴクリと唾を飲み込んだ。
窓から入る風に絵巻物が揺れた。
その後なんとか光源氏を絵巻物にもどそうと、(主に克己が)光源氏の顔を絵巻物に押し付けたり、蹴り飛ばしたり、体当たりしたりしてみたが、一向に戻りそうな気配は無く、先に絵巻物が破れてしまいそうだったので、諦めた。
とりあえず、自称光源氏はしばらく家に住み着く事になった。
お母さんが、「じゃあ、今日からあなたは光君ね〜」っと言ったので、自称光源氏は光と呼ばれる事になった。
「熱心になに読んでるの??」
一緒に来たゆみとセリが不思議そうにみる。
「あっ!源氏物語??」
「うん…まあ。」
「あのさ、もしもだけど、もしも目の前に光源氏が現れたらどうする??」
「は?」
ゆみがわけわからんっと言った顔をする。
…そうだよねぇ。意味わかんないよねぇ。
「え〜?素敵じゃない??あんなプレイボーイ会って見たいよね!?」
セリが楽しそうに笑う。
それにゆみは納得いかないと言う顔をして言う。
「えー??そう?でもさー、平安時代の貴族って太ってたんでしょ??今あらわれても、タダの白デブでしょ⁇」
「えっ‼︎なんで知って…‼︎」
私は思わず身を乗り出してしまった。
二人は私の勢いにびっくりした顔をした。
「なんでってこの前古典の時間に言ってたじゃん?あの時代は満足に食べることができない人も多かったから、太っているのは、富と権力の象徴でもあったって。」
「そうそう!中には自分で歩けなくて侍女に担いで貰う貴族もいたなんて言ってたじゃんね〜?あっ!あさみは寝てたんじゃん⁇」
「…そうだったんだ」
なんてこった!やっぱりあいつは光源氏なのか…‼︎
頭の中で生田夏真君ふんする光源氏が音をたてて崩れていった…。
友人2人は私が何故そんなにショックを受けているのかわからないようだ。
「まっ、まあっ、時代によって、価値観は違うしね?イケメンも時代によってそれぞれだよ!」
「そうそう!ウチのおばあちゃんは石原裕一郎が大好きだけど、あたしもお母さんも顔濃い人苦手だし!良純はいいヤツだけど顔は好みじゃないし!」
「あっでも、『紅、野豚』のマルコは好きだよ!豚でもきっと光源氏はかっこいいんだよ?ねっ??」
わけわからない励ましを受けてしまった。
その後乙女3人のトークは「豚と鳥と牛ではどれが一番美味しいか」に話題は移っていった。
とりあえず、図書館でわかったのは、あの時代はオカメ顏の白ぽっちゃりが最高にイケていた事と、平安時代の貴族は豚を食べなかった事、それから羊羹が日本に伝えられたのは、もう少し先の話と言うことだけだった。