満月とイケメン?!
二人が目を開けたそこにはー
玉の様に美しい白い肌、スッと通った鼻、切れ長の涼しげな目、控えめな唇。
そしてー。
…。
ええっと、もう一度最初からいこうか。
玉の様に美しい白い肌、スッと通った鼻、切れ長の涼しげな目、控えめな唇。
そしてー。
そしてその内から放つ輝くようなオーラをもった青年をいつしか人々はこう呼ぶようになった。
バンっ!
「キクじい!姉ちゃん!栗羊羹食おうぜ!」
食事を終えた克己がいきなり部屋へ入って来た。
そしてー。
「ん?誰だこの光る(白い)ブタ」
「ブ…タ…??」
光るブタ?さんはその場に倒れてしまった。
「あんたねー‼︎」
私は克己の方を振り返り怒鳴る。
「⁇」
私は巻物の中から人が現れたという、あり得ない現実が起こっているにも関わらず、こんな失礼過ぎる弟がこの先、世の中でやっていけるかの方に不安を覚えてしょうがなかった。
「…やっぱり警察に連絡した方がいいのかな?」
とりあえず、謎の色白の青年をソファで寝かせて家族会議を開いた。
冷静に考えて、巻物から人が出てくるなんてあり得ない。
きっとキクじいと私が目を眩ましているスキに窓から侵入したに違い無いと結論づけた。
…窓は鍵がかかっていたが、この際、気にしない事にした。
「でも、悪い人じゃねーんじゃないの?神主さんみたいな格好してるし。近くの神社から、迷い混んで来たんじゃね?」
克己が呑気な口調で言う。
そんな…迷い猫みたいな扱いであんたは…。
格好に騙されるな!世の中には警察官のコスプレをした犯罪者だっているぞ!
弟は失礼に加えて、ノー天気な様だ…。
姉ちゃんは益々不安になったよ…。
「そうねぇ。とにかくこの人が目を覚ましたら事情を聞きましょう。」
母が寝ている青年を見て、そう言った。
克己が言った様に、この人は神社の神主みたいな格好をしている。
頭には烏帽子?を被って。
玉の様に白い肌、目鼻立ちの整った顔。
私は一瞬、本当に源氏物語から現れたのかと錯覚しかかった。
しかし、しなかった。
…そう、克己が言う様にこの人は太っている‼︎
確かにひとつひとつのパーツを見れば、美形に見えなくもない。
しかしながら、、、However下ぶくれなのだ‼︎
たぷたぷの顎に隠れて首が無くなりかけている。克己が言った様に、シロブタさんなのだ。
私が想像していたような姿とはかけ離れ過ぎている。この人は絶対に光源氏ではない!どっかの迷いブタさんに決まってる‼︎
克己の影響ですっかりブタを容認してしまっていることに麻美は気づいていない。
「…うっ…うーん…」
そうこうしていると、謎の青年が起き上がった。
「気がついたのね。」
母がにっこりと笑いかける。
「…はっ!此処はどこじゃ!?お主らは誰ぞ!?」
一体、訳がわからないっといった表情で、青年は私たちに訝しげな目を向けて叫ぶ。
「おい!誰だって言う前にお前が名乗れよ!このブっ…」
克己が全てを言い終わらないうちに慌てて私は克己の口を塞いだ。
「あんたは、黙ってなさい‼︎」
「お姉ちゃんの言うとおりよ。まったく。
じゃあ、私たちから自己紹介ね。私は笹沼優子。この家の家主よ。で、こちらが私の義父の弟の喜九郎おじいちゃん。それから、こっちが娘のあさみで、この子が息子の克己よ。そしてここは、東京の江戸川区よ。」
私たちの顔を順番に見る。その目にはまだ、恐れがあるように感じた。
「とう…きょう…?…えどがわ…?」
「そう、東京の江戸川区よ!で?あなたは誰でどこからいらっしゃったの?シロブタさん!」
ーお母さん‼︎せっかく私が克己の口を塞いだのにあなた…
「ちょっ!お母さん!」
私がなんとフォローしようか考えていると、
「シロ…ブタとはなんぞ⁇」
あれ?通じてない⁇
まあとにかく、本人気づいて無いならフォローの必要はないか?
「なんだよ、お前シロブタ知らないのか?シロブタってのはなぁー」
ーグフっ
とりあえず、こいつには暫く寝ててもらおう。
「取り乱して、すまなかった。どうやらまろの方が、招かれざる客のようだな。まろは今どうして此処に居るのか、皆目見当もつかぬのじゃ。」
ーまろ!?
昔放送してた教育TVのおじゃまろの大ファンで口癖を真似してるのね。いい年こいて。
「まろは、光源氏と申す。」
ー!?
いやいや、同姓同名ってこともあるよね⁇かなり珍しい名前だけど。
「確か、若紫と一緒に月見を楽しんでいたはずなのじゃが…」
ー若紫!?
紫の上のこと!?
いやいや、猫かな?猫ならそういう名前もアリだよね。きっと紫色が好きなのだ。
私たち3人は(一人は再起不能のため)お互いを見合わせた。
「光…源氏が現代に現れたのじゃ…!」
とうとうキクじいが言ってしまった!あり得ないけど、一番納得のいく解答を!
「まあっ!…そんな事もあるのね!」
お母さんは興奮気味で言った。
…ねーよ。
私がこの状況に困惑していると、自称源氏がふと、立ち上がった。
?
そして、窓の外を見上げてこう言った。
「…とうきょうのえどがわく…。初めて聞いた所じゃ。まろが住んでいた所とはまるで違うようじゃ。」
さっきまで、大好きな人達とお月見を楽しんでいたのに。
目を覚ましたら、急に誰も知り合いもいない、何処かもわからない場所にいて。
この人が一番、困惑していて…そして寂しい思いをしているのかもしれない。
「だが…月は同じ様に綺麗じゃな。」
そう言って愛おしむように月を見つめた。
白い肌が月灯りに照らされて、青白く見えた。
そんな自称源氏の前に、母がスッと小皿を出した。
「…これはなんぞ?」
「栗羊羹よ!甘くて美味しいの。これ食べたら元気出るわよ〜。今後の事はゆっくり考えていきましょ」
そう言って差し出された、羊羹を受け取ると、彼はフッと目を細めて笑った。
私が不思議そうに見つめると、彼が羊羹の切り口を見せてこう言った。
「こんな所にも満月があるではないか」
そう言って嬉しそうに、微笑む自称源氏。
私は不覚にも少しカワイイと思ってしまった。
いや!ときめいてはいないよ??だってシロブタだし‼︎