恋の始まりは
「ねえ、そろそろ光君を紹介してよ」
セリとゆみがニヤニヤしながらあさみに詰め寄る。
「はあ?なんで光を?…唯の従兄弟だよ??」
光が現れてかれこれ一ヶ月が経とうとしていた。。
相変わらず光はあさみの家に居候していた。
光のヘンテコな言動を、話したくて仕方なくなったあさみは、セリ達に従兄弟の光として、一部編集して話していたのであった。
「だって…ねえ?」
二人は顔を見合わす。
「あさみの今度のお相手でしょ??」
…
「はあ!?」
「違うの?だって、いっつも光君の事を話すあさみ、楽しそうよ。」
「ねぇ〜?」
2人は顔を見合わせて言う。
「ぜっ…全然違うから!どうしてあんな白ブタを!二人ともあたしの趣味知ってるでしょ??」
あさみは興奮気味に否定した。
どうして2人がそんな勘違いをしたのか、全くわからない。
「まあ、そうなんだけどさぁ。あさみも趣味が変わったのかと」
「やっと紅の豚に出会ったのかなって♩実際は白かったようだけどね〜!」
「…出会って…ない!!」
あさみは強めに全否定した。
それでも2人は食い下がる。
「でもね、あさみ」
ーキーンコーンー
予鈴が鳴った。
「授業始まるからもう二人とも戻って!」
「は〜い」
不満気な二人を席に戻すように促す。
いったいなんなんだ。勘違いもいいところだ。
確かに、ここ最近、光の話はよくしていた。でも、単純にあいつがオカシイからであって、決して好きとか…そんなのでは無い。
確かに、雄太君の事を目を覚まさせてくれたのは光だけど…。
確かに、バイトで庇ってくれたりした時は嬉しかったけど…。
いやいや!恋愛対象では無いでしょ?!第一、平安貴族だぞ??
そこまで、考えてあさみはふと、重大な事実に気づいた。
そう、光はこの時代の人間じゃ無いんだ…。
突然現れたのだから、突然消える事だってあり得る…。
チクリッ。
いつの間にか、あさみの中で光は当たり前に居る存在になっていた。
「ただいま〜」
「あさみ殿、おかえりでおじゃる。」
ニコニコしながら、光が出迎える。これもいつもの風景。
いつもの…。
「どうかなさったか?元気が無い様でおじゃるが…」
なんと無く、いつもより元気が無いあさみを心配して光が尋ねる。
「ううん、なんでも無い。着替えてくるね」
あさみは力なく階段を登る。と、足を踏み外してしまった。
「キャツ!」
「あさみ殿!!」
ドスっ。
あさみは思いっきり光の上に乗っかった。
「〜っつ。」
「あさみ殿、大丈夫でおじゃるか?」
光があさみの顔を覗きこむ。
切れ長の目があさみを心配そうに見つめる。
ドキリっ。
あさみは思わず、光を押し退けた。
「だっ大丈夫だから!それより、光こそ大丈夫??重かったよね??」
急いで立ち上がる。目を合わせられ無い。
「麻呂は大丈夫でおじゃるが…あさみ殿やっぱり今日は変ぞ??」
そう言うと、光はあさみに近づき、あさみの前髪をかきあげると、自分の額をあさみの額に当てた。
「なっ…!」
言葉が出ない。
「ふむ…やっぱりちょっと熱っぽいでおじゃる。風邪でもひかれたのではないか?」
…!
「…あさみ殿??大丈夫でおじゃるか?」
「…おじゃるおじゃるうるさいのよ!!もう!私、疲れたから寝る!構わないで!!」
そう言うとあさみは勢い良く階段を駆け上がった。
ドキリっ。
最初は自分の鼓動を疑った。
…嘘でしょ?あんなの理想とかけ離れ過ぎてる…ゆみ達が変なこと言うから!!
だけど、今も続くこの心音は、階段を勢い良く駆け上がったからじゃないことに、あさみは気づいていた。
「あさみ殿?!いったいどうしたというのでおじゃるか??」
1人取り残された光は訳が分からなく、困惑していた。
「…嫌われたな。」
「!?」
一部始終を見ていた克己が光の肩をポンっと叩いて去っていった。




