あさきゆめみし
今となっては昔の話だが、一際女性たちの注目を浴びた1人の青年がいた。
玉の様に美しい白い肌、スッと通った鼻、切れ長の涼しげな目、控えめな唇。
そしてその内から放つ輝くようなオーラをもった青年をいつしか人々はこう呼ぶようになった。
「光る源氏(光る君)」と。
「あさみ!あさみったら起きてよ〜!」
「あれ!?源氏は!?」
「…もう古典の授業終わったよ。」
あさみはどうやら居眠りをしていたらしい。
「今、生田夏真君と天川祐希をたして2で割ったようなイケメンが目の前に居たはずだったんだけど」
「それは世間一般では夢と言うものだよ?」
ゆみは少し呆れ顔であさみに言った。
セリはくすくす笑っている。
「ちえっ…。」
あさみが現実の世界にやっと戻り始めた時、あさみのケータイが震えた。
そのディスプレイを見たあさみは、急に散らかっていた机を片付け、カバンをつかんだ。
「ごめん!ゆみ!セリ!今日先帰るね!また今度ポップコーン食べに行こう‼︎」
そう言うと、すぐさま教室を出て行った。
「ちょっ!あさみ〜!?」
あさみは振り返らない。
「…また雄太君かな。」
セリがポツリと呟いた。
夢の中のイケメンにデレデレしてる暇ではなかった。
正真正銘現実世界のイケメン雄太君からLineがきてるじゃないの!
しかも寝てたから最初のメッセージに気づかなかった!なんと言う不覚…。
"今日、放課後会えるかな?"
"忙しいのかな?また今度にしよっか?"
あさみは直ぐに
"ごめん!全然大丈夫!"
と返信し、走り出した。
"じゃあ、駅前でね。"
「雄太君!」
ケータイをいじっていた青年は顔をあげると、にっこりと微笑んだ。
アーモンド型の優しげな瞳が少し細められた。笑うと少しだけエクボができる。
栗色に染められた髪が光に反射して金色にもみえる。そこからシルバーのピアスが覗く。
大人っぽさの中にも少年のあどけなさが残る彼は、イケメンの部類に入るであろう。
「返信遅いから今日は会えないのかと思っちゃったよ。」
少し意地悪そうに雄太はあさみに言った。
「ごめん〜!居眠りしててケータイ全然気づかなくて…。」
「居眠りしてたの?あさみは相変わらずだな。」
そう言って雄太はあさみの頭をくしゃくしゃっとした。
「髪ぐっちゃになっちゃう〜」
そう言いながらあさみは内心嬉しかった。
雄太君に頭触ってもらえた!
「お腹空いちゃった。あさみどっか行きたい所ある?」
「特にはないけど…」
雄太君と行けるならどこでもイイ。
「ロイポでもいい?期間限定メニューが美味しそうだったんだよね〜」
「じゃあそこで!」
「決まりだな」
そう言うと、またアーモンド型の瞳がにっこりと細められた。