第8話 症状
今回は次男のソリス目線です。
俺の手を握って眠りについたアルは辛そうに呼吸をしている。
父上も魔力過多症だと言っていたがここまで辛そうではない。でもやっぱり薬を飲んでいるところを見かけると治らない病だという事を痛感する。
こんな小さくて母上にそっくりなアルは兄上や俺にはあまり似ていない。俺たちはどっちかというと父上似だからな。そのせいかアルはいつも儚げな雰囲気というかほわほわとした空気を纏っていてなんか心配になる。病気のせいもあるんだろう。
あいている片手でアルの体の汗を拭う。頬を赤く染めて眉を八の字にし、さっきまで視界が定まらなかったのか潤んだ紫の瞳で見られた時は我が弟ながらどきっとしてしまう始末。今はその瞳も苦しそうに閉じられているが。
きっと兄上なら俺みたいに動揺する事なくアルの世話を完璧にこなす事が出来るんだろう。
兄上は母上と一緒に戻ってきた。父上はまだ仕事から帰っていないみたいだ。母上の手にはパンユ。パンユはパンと呼ばれる柔らかい木の実を煮込んで流動食にしたもの。具合が悪い時によく食べる。栄養価が高いらしい。
「アルの様子はどう?」
「まだ辛そうだな。」
母上はパンユをアルの小さな机の上に置いて兄上と一緒にアルを覗き込む。俺の手を握って離さないアルはきっと不安なんだろう。体調が悪い時はこうやって誰かの手を握るのがアルの癖だった。・・・でも、さっきみたいにキスをしたことあったっけなあ。ま、嬉しかったけど。
キスの事を思い出して少しにやけた俺に気付いた兄上が少し冷たい眼差しで俺を一瞥した。アルのキスの事は俺の胸の中にしまっておこう。
「ソリス、タオルを貸して。お前はアルに手を握られて汗が拭けないだろう。俺が拭くよ。」
確かに、ちょっと拭きにくいとは思ってたけど、なんかやだな。ん、と手を出してくる兄上の目を見ると・・・冷たい!冷たいよ!俺は瞬時にタオルを兄上に渡した。だってあの目!怖すぎる・・・。
兄上は渡されたタオルでアルの体の汗を一生懸命拭きだした。多分兄上は自分の手が握られなかったからやきもちを焼いている。兄上はアルの事が大好きだからな。
「・・・母上、アルの服も脱がせて着替えさせましょう。このままじゃ汗で冷えます。」
アルの汗の量に気付いた兄上が母上に提案すると母上も了承して、パジャマを取ってくる、と言い、部屋を出ていった。兄上はその間にアルの汗に濡れた服を脱がせ始めた。
汗で結構濡れてしまった服は脱がせにくいらしく、ぐったりと寝ていたアルにごめんな、とだけ声をかけると抱き起こした。アルはそれでもぐったりと目を閉じたままだった。その様子に毎度のことながら不安になる。だけど不安になるのは俺だけじゃなく、兄上も眉を歪めてアルの痩せている体を見ている。俺達と同じものを食べていてもなかなか太らないアル。でもこの調子じゃいつか病気以外で倒れそうだと前も思った。
兄上はアルの上半身を裸にしてタオルで拭く。流石に兄上の手際は良かった。だてに長男やってないよな。
「・・・あ、にう、え。」
流石に目が覚めてしまったようでアルは自分から握っていた俺の手を離す。この瞬間はちょっと寂しい。
「アル、目が覚めた?母上が作ってくれたパンユがあるけど、食べれそう?」
兄上の問いかけにアルは倦怠感からか目を伏せ緩く首を横に振った。
「でも、食べれないと薬が・・・。」
俺の言葉にもアルは珍しく拒否を示した。いつも自分からあまり主張しないアルにしては珍しい。思わず兄上と顔を見合わせてしまった。だけど兄上も少し戸惑っているみたいだ。
そんななか、魔力がアルの体から急に放出された。
その勢いで俺たちは思わずアルから飛びのく事になってしまった。
全然まとまらない・・・・・・。
ごめんなさい・・・・・・。