第5話 日常
アル、6歳になります。
時が経つのが早くてごめんなさい・・・
時が経つのは早いと前世から感じておりました。
「アル、おはよう。」
「・・・はよ。」
私は6歳になりました。この5年と半年の間私は魔力過多症と戦い、そして前世からの人見知りを発動して家族ともまだあまり会話をする事ができません!ああ、まだ赤ちゃんのころは素直に喋れたのに!(赤ちゃん語だけど)私の馬鹿!
「アル、今日は調子良さそうね。でもあんまり無理しちゃだめよ。」
私の顔色を窺っていたお母さんが私と視線を合わせてにっこりと笑う。・・・しかし、私は人の目を見るというコミュニケーションをとる手段として重要な事が苦手だ。
だからつい、目をそらしてしまう。そのたびにお母さんがちょっと悲しげな顔をしてるの知ってます!ごめんなさい、でも無理です!
「はやく席についてね、もう朝ご飯はできてるわよ。」
私の頭をぽんぽんとして部屋を出てくお母さんの後姿を見送る。あああ、罪悪感。
ダイニングテーブルには朝食である野菜スープとフランスパンみたいに固いパン、そしてミルという動物からとられてる乳。(ミルは見た事ないけど、多分牛のようなものじゃないかと思ってる)これが我がウェストリア家の定番朝食メニュー。
既に長男のユーリグは余裕を持って家を出ていて、今現在次男のソリスが遅刻だ!と騒ぎながらパンを口に詰め込んでる。でもあんなに詰め込むと、
「げふっ、つま、たっ!アル!飲みもん!」
やっぱり・・・。
私は喉を詰まらせて苦しそうにしているソリスの元へミルの乳を持って行ってあげる。私の手から奪い取ってごくごくと飲む様を見ているとよほど苦しかったんだなと思う。
「じゃ、行ってきます!」
「・・・・・行ってらっしゃい、お兄ちゃん。」
「行ってらっしゃい、気をつけるのよ!」
「・・・じゃ、俺もそろそろ出るよ。」
私は朝食を食べながらソリスを見送ると、お父さんも仕事に行くため立ちあがった。お父さんは王様の近衛騎士をしている。近衛騎士は男の子の憧れの職業らしい。よくソリスが話しているから私も覚えた。
「ライアン、気をつけてね。行ってらっしゃい。」
「ああ、行って来るよ。
アル、いい子でいるんだぞ。」
「・・・・・はい。」
わしゃわしゃと私の頭を撫でるお父さんの大きな手は好きだ。ごつごつしてるけどそれはお父さんがいつも頑張っているという証。つい頬が緩んでしまいそうになる瞬間でもあるが、ここで笑うなんてキモい。だからいつも下唇を噛んで笑わないようにしてる。だって急に息子がへらへら笑いだしたらそれこそもう撫でてくれないかもしれないし・・・・。
お父さんとお母さんは行ってきますのチュウをしている。それもフレンチじゃなくて深いやつ。最初に見た時はうあ、とか思ってたけど、実際6年も見ていると慣れる。そんなもんだ。
お父さんが最後仕事に行くと家に残るのは私とお母さん、そしてお手伝いのミシェラさん。ミシェラさんは私が魔力過多症と判明してからお父さんが雇った70歳のおばあちゃん。でも年齢なんか屁でもねえとでも言うかのような働きをしてくれるらしくお母さんからの信頼は絶大。
お母さんは私が魔力過多症の症状に悩まされている時片時も離れずに済むようミシェラさんに少しの家事をお願いしている。私が発作でうんうん言ってるような時にはミシェラさんはこの家の事全てを取り仕切るのだ。だから最近私はミシェラさんを尊敬の眼差しで見るのだがどうにも嫌われてるらしい。冷たく見下ろされる事がしばしば。兄たちが喋りかけているときは笑顔なのに。
ま、正直私も嫌われててもめげずに話しかけるという根性はないのでもうあまり見る事もない。
「アル、昨日熱が下がったばかりなんだから今日も一応ベッドに寝てようか。」
そして今日も私はベッドの住人になる。