第4話 私の決意
「アル!目が覚めたのね!?」
のちのち聞いた話では、私は約1カ月も眠りについていたらしい。その時はそんな事全然分かってなくてやべ、ちょー体重いんですけど!的な状況に陥っていた。
「アル!
サフィ先生!アルの目が覚めました!」
私の顔を覗き込んでいたお父さんとお母さんの後ろから足音が聞こえ、ひょこっと知らない顔が出てきた。お父さんにサフィ先生と呼ばれたその人は、青くて綺麗な髪を一つに後ろで縛っていて、なんだろ、髪が長い男の人って前世では不潔だなんて思っていたけどこの人は違う。
「うん、顔色もいいし、今は・・・・もう大丈夫でしょう。けど、たびたびこれからこういう事が起こるのでご家族の方は覚悟しておいてください。」
「・・・はい、サフィ先生ありがとうございました。」
お父さんとお母さんが立ちあがって深々とそのサフィ先生にお礼をしている。どうやらこのサフィ先生が私をあの熱さから救ってくれたらしい。
お礼の意味を込めて、あうあう(ありがとう)、というとサフィ先生は優しげな青い瞳を細めて笑ってくれた。まじ、イケメン。
「じゃ、僕はこれで。」
「本当にありがとうございました!」
「・・・こう言っちゃなんですが、奥さん、何度も言うようですが、アルティス君はこれからもずっとこのような症状に悩まされるでしょう。看病はきっと大変だと思います。なのでぜひご家族とご協力し合って下さい。」
居間で話し合っている大人たちの声が聞こえてくる。顔は見えないけどけして笑ってはない。声からは深刻さもうかがえる。
サフィ先生が言うには、きっとこれから私は迷惑をかけるんだろう。いや、かけ続けてしまうんだろう。・・・家族の役に立ちたい?こんな体で?今の自分は無力だ。成長したら親孝行するどころかずっと世話をさせてしまう。
家を出よう。
私をどんだけ愛してくれているかこのたった1カ月で分かったつもり。その気持ちはとっても嬉しくて、・・・・だからこそ。
このまま甘え続ける事なんてできない。一応前世ではちゃんと成人もして、仕事もやっていた大人だったしやろうと思えばなんでもできる気がする。自分の事は自分で。勉強もする。私だってやればできる。
「あうあうあー(絶対両親に世話掛けないんだから!)」
一人、ひっそりと決意した生後1カ月のことでした。
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「・・・ライアンさん、どうか魔力を抑えてください。今のアルティス君に悪影響を及ぼしかねません!」
先生の言葉に、はっ、となって自分の体から放出された魔力を抑える。自分の悪い癖だ。感情が高ぶると魔力が体から漏れてしまう。もともと人よりは魔力が多い方なのも原因だ。
「先生!アルは!?アルティスは治るんですよね!」
「それは、・・・・今の魔学では難しいです。」
先生の言葉にメリアがふらつく。俺が後ろから支えてようやく立っているような状態だ。
魔力過多症、その名前は俺もメリアも聞いた事が合った。何故なら俺も魔力過多症だからだ。でも、俺の場合は軽度で月一程度魔力を薬によって減らす方法をとれば何ら問題ない程度。そのことはメリアも知っていた。
そもそも魔力過多症とは人が生まれた時から持っている魔力が入っている袋の限度を超えて魔力を保有している状態の事を言う。その症例はあんまり無く、だが例として魔力を多く持つ貴族と一般的な魔力量の平民が子を持つとそのような病になると聞く。だが今回、きっと原因は俺だ。
「ライアンさんも確か魔力過多症ですよね。・・・きっと遺伝的なものです。」
サフィ先生の言葉に頭が真っ白になった。どこかでやっぱりな、と思っている俺にメリアが俺の手を掴んで握りしめた。不思議な事に体内でざわめいていた魔力が落ち着いたのが分かった。
「アルティス君は、重度の魔力過多症で、これから頻繁にこのような体調不良を起こすでしょう。薬を処方します。毎日、欠かさず飲んで下さい。飲んでいても体調が悪くなる場合はまた僕を呼んで下さい。いいですね?」
その言葉に一番早く反応したのは俺でもなくメリアでもなかった。
「分かった!すぐ先生を呼びに行く!」
さっきまでぽろぽろと泣いていたソリスだった。息子の初めてみるこんな表情にみんな驚いている。でもサフィ先生だけが、宜しくお願いします、といってソリスの頭を撫でた。
ソリスも強い光が灯ったその青い目を先生に向けて、こくり、とひとつだけ頷いた。思いもがけないまだ子供だと思っていた息子の顔がもう大人になりかけていて、嬉しいような寂しいような。
「ライアン、私達もアルにできることを精いっぱいやってあげましょう。一緒に守るの、アルを。ね?」
さっきまで俺に支えられていたメリアは母親の顔をして俺を見る。ああ、ああ、そうだな。アルも、メリアも、ユーリグもソリスも、俺の家族だ。守るべき大切な。絶対、絶対守る、この俺が。
最後、アルが魔力過多症だと分かった直後の話です!
ライアン(お父さん)の決意表明でした!