第15話 結局キスした事を忘れた
キス、された。
フォルナに。
「ええええええええっ!!」
俺がベッドから飛び起きた時すでにそこにはフォルナはいなかった。あれは、夢?
「アールっ!起きたのお?おはよお!」
いつも俺が起こさなきゃ起きなかったフォルナが俺に挨拶をしながら部屋に入ってきた。いつも通りといえばいつも通りなフォルナに俺は流されるまま部屋を出る。フォルナが作ったと言った朝ごはんのいい香りがふんわりと香ってきてああ、素敵な朝だななんて思ったのも束の間。
「僕う、アルのこと好きだからさあ、これからどんどんいくねえ。」
ん?隣を歩いていたフォルナの顔を思わず見上げたが何事もなかったかのようにキッチンに立って食べる準備をし始めた。
どんどんいく、とは?
頭の中がクエスチョンマークでうまるなか、フォルナは一人上機嫌にスープをかき回していた。あんまり掘り下げないほうがいいような気がする。機嫌がいいなら俺も嬉しいし。
考えるのを放棄して俺は食器をだしたり、フォークを準備したり、ミルの乳をコップへ二人分注いだり。フォルナは甘いものが好きだからミルの乳に少し花の蜜を入れるのがお気に入りだ。スプーンで小さじ一杯。とろりとした琥珀色の蜜がミルの乳に溶けてほんのり優しい色に染まる。
久しぶりの日常に安心して無意識に頬が緩んだ。ずっとこんな毎日が続けばいいのに。
「アルー、ご飯できたからもう食べよー。」
うん、と頷いて椅子に座る。
「はい、ではではいただきまあす。」
「・・・ます。」
俺の前でぱくぱくとご飯を食べ進めていくフォルナを見て俺もぱくぱく食べる。うん、美味しい。
「アルう、あのねえ、王都に行こうと思うんだあ。」
え?王都?王都・・・・・。お父さん、お母さんん、兄さんたち・・・。皆んな王都にいる。俺が逃げたあの場所に。
「・・・アル、アル!」
考え込んでいた俺をフォルナが引き戻す。慌てて前を向くとフォルナもどこか焦ったような表情をしていた。滅多に見ないその様子に俺は却って冷静になれた気がした。
「・・・なぜ王都へ?」
「僕だって本当は行きたくなんてないんだよ・・・。でも、やらなくちゃいけないことができた。僕と、アルのためにね。」
「それは、危ないこと?」
「ふふ、だいじょーぶ!僕に危険なことなんてないよお!」
にっこり笑ってぱちりとウィンクをされた。きゅん、胸が鳴る。単純な俺はそれでまたフォルナが好きだと自覚をする。だけど今は流されている場合じゃない。確かにフォルナは強いけど、強いけど・・・・。ずっとぐるぐると悩む。
フォルナが悩んでいる俺を傍目に座っていた自分の椅子を持って俺の隣に置きすとんと座った。
「なにがそんなに心配?」
ん?と俺の顔を覗き込む。優しい垂れ目に俺の不安げな顔が映り込んでいる。
「・・・フォルナが傷つかないか。」
傷つくのは体だけじゃないって俺は知ってる。大事な、大事なところが傷ついてしまったらそれはとっても治りにくいことも。
「ふへへ、」
目をまるで蕩けさすように笑うフォルナに思わずムッとする。俺はこんなにも心配してんのに。
「なんだよ。」
「へへ、だってとっても嬉しくてさあ。僕の胸をこんなに暖かくしてくれるのはアルだけだなって再確認してたとこ。でも本当に僕は大丈夫なんだあ。僕のそばにアルがいてくれる限りね。」
・・・ずるい。そんなこと言われたらもう何も言えないじゃないかよ。それでもどこか納得いかない気持ちをぶつけるためにフォルナの胸にぐりぐりと頭を押し付ける。だけどそんな俺も優しく頭を撫でてくれて子供っぽい自分も悪いけど子供にしか見られてないそのさまにちょっと悲しい。
「わかった。じゃあフォルナのためにそばにいる。」
「うん、僕のためにそばにいてね。」
俺の胸のどきどきが伝わりませんように、そんな事を考えながら拒否をしないフォルナをいいことに俺はフォルナにぎゅっと抱きついた。




