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第14話 キス


 俺はもう美子じゃない。今を生きているのはアルティスだ。


 正直に生きよう。正直に伝えよう。フォルナが大好きなこと。ずっと一緒にいたいこと。俺がフォルナを嫌うことなんてないこと。フォルナのためだったらなんでもチャレンジできること。


 フォルナに会いたい。会いたいよ。薬草の香りがするローブに包まれたい。フォルナの体温を感じたい。大きな手で撫でて欲しい。





「フォルナぁ・・・。」



「アルっ!!」



 ぎゅうううっと抱きしめられてフォルナの体温を感じて俺はこっちに戻ってこれたことを実感した。苦しいくらいに抱きしめられていてもそれが今は丁度いい。俺もフォルナの背中に腕を回したいけど強く抱きしめられすぎてうまく腕を回せない。せめてフォルナの名前を呼ぼうと思っても、喉がからからでもう声が出そうにない。思いだけが強く俺の体から溢れ出そうで出ない声の代わりに涙がたくさんこぼれ落ちた。


「ごめんねえ、ごめんねえ。」


 フォルナは俺にずっと謝っていた。俺は何故フォルナが謝るのかよくわからなかったけど、とりあえず今この状況がとっても嬉しくてその幸せに浸っていたかった。


 フォルナがやっと俺から腕を離し、顔を覗き込んできたのは太陽が照らしていた部屋がすっかり暗くなった時だった。


 「アル、君は体の奥に封じてあった魔力が暴走しはじめていて、危なかったんだあ。なんとか僕がアルの魔力を空気中に放出して、暴走を止めることができたんだけど、それからずっと眠ったままだったんだよお。」


 フォルナの瞳には涙がたまっていてそれだけでどれだけ心配をかけてしまったのかが分かった。


「ずっとって・・・どれくらい?」


「一ヶ月だよお。」


 へにゃりと笑ったフォルナに俺は驚きが隠せないでいた。あれから一ヶ月もたっていただなんて。体感だとまだ昨日の出来事のように感じる。


「ごめんねえ。僕がバーンと話していたのを聞いていたんだよねえ。」


 その言葉にびくりと体が反応する。あの時最後までちゃんと聞けていなかったけど、フォルナはどうするんだろう。俺はフォルナのことが大好きだけど、フォルナのことを思ったら国の施設に入ったほうがいいのかもしれない。バーンは俺がいることによってフォルナが仕事できなくなるのを危惧していたのかな。


「僕はねえ、」


「いいよ、俺施設に行くんだろ?大丈夫、全然平気だ。」


 フォルナの言葉を遮ってちゃんと笑って平気そうな顔をして伝える。ちゃんと笑えているかな。俺の言葉を聞いた瞬間フォルナは俯いてしまって表情が読めない。


「誰が、誰がそんなことを言ったんだ?」


「え?」


 フォルナから、確かにフォルナから聞こえてきた声に怒りを感じて固まる。いつもの口調と全然違う。本気の怒気をぶつけられていた。


「僕はアルを離さないよ。アルが離れたがっていたとしても。バーンに言われていたことは気にすることはない。僕を言う通りに動かせたいジジイ共がバーンを唆していただけだ。」


 フォルナから言われていることをうまく脳が処理できなくてぽかんと顔を見つめてしまう。そんな俺をにっこり笑って大きな掌で顔を包み込む。


「アルが心配することは何もない。ぜーんぶ僕が悪い奴らを倒すからさあ。」



 そのままフォルナの顔が近づいてきたと思ったらなんの前触れもなく口づけをされた。


 驚きで目を瞠る俺を妖艶に嗤って今度は深くキスをしてきた。息がうまくできずに俺はこの現実が信じられないまま意識が遠くなっていくのを感じていた。







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