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第11話 壊れていく

お久しぶりです。

ちょっと、暗いお話です。


 俺は前から望まれていた存在ではなかった。


 この記憶はアルティスではなく美子としての記憶。もう、ずっと昔のことのように思い出さないようにしていたけど、その記憶はいつも俺の根底に棲みついていた。まるで美子が忘れることは許されることではないと言っているかのように。




「美子はやくしなさい。お母さん仕事だから。今日も夜遅くなるけど大丈夫よね。」


 物心ついたときから父も母も仕事人間で、家族みんなで旅行なんて行った記憶なんてなかった。朝、お母さんを見送って、学校に行って、帰ってきたらご飯は適当に冷凍庫に入っている食品をレンジで温めて食べる。お父さんは半年に1回顔を見ればいい方だった。そんな生活が小学生まで続いてあれ、なんかうちはおかしいのかも、と思い始め出した中学生のころ、父と母は死んだ。偶然にも同じタイミングで。父は取引先の会社に行く途中だったという。信号無視の車に轢かれて。私は遺体を見ることはできなかった。親戚だと言ってきた知らないおばさんに見ては駄目だと言われたのだ。あの頃はなんでかよく分からなかったけど、多分子供に見せられるような綺麗な姿では死ねなかったんではないかと今では思ってる。

 母は、巷を騒がせた通り魔による犯行で殺された。ナイフで数十か所刺されていたと葬式の間どこからか聞こえてきた。可哀想なお母さん。綺麗だったお母さん。正直そのくらいにしか思わなかった。お父さんに対しては何も思わなかった。ひどい娘だと自分で思った。周りからの声も聞こえた。泣かないなんて気味悪い、両親が死んだのに。





 そんなこと、自分が一番わかってる。




 それから、何日かしてまたも見たことがない親戚の人に私は引き取られることになった。40代の独身のおじさん。お金だけはあったらしい。私にいろんなものを買い与えてくれた。そのお礼として私は体を差し出すことになった。おじさんは喜んでくれた。私もおじさんが喜んでくれるならと、なんでもした。なんでも。


 あの頃は全てが狂っていた。ぎしぎしと心がきしむ音が絶えず耳の奥からしていた気がする。その音が無視できないほど大きくなった時、私は高校を卒業し、就職した。それを機に、一人暮らしを始めることにした。


 あの日まで、私はおじさんと縁を切った気になって順調に暮らしていた。でもそれは気のせいだった。



 思い出す、私が、俺として目覚める直前のこと。なぜか俺は目覚めたときすでにアルティスで、美子としての記憶はそんなにしっかりとはなかった。特に、美子としての最後の夜。あの夜はいつもと同じだったと、思いこんでいたんだ。


 突然だった。おじさんが私の部屋に来たのは。あの夜、おじさんはとても酔っ払っているようだった。部屋のチャイムが鳴った時、どうして気付くことができなかったんだろう。おじさんが来ているということに。私は無防備に、扉を開けて、・・・・また、穢されたんだ。






ありがとうございました。

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