第2話 あの日あの時あの場所で
アルとフォルナの出会ったころの話です。
そこはどこかも分からない細い路地で、空からは俺を、私を追い詰めるかのように、大粒の雨が降ってきていた。
どこか見覚えのある景色、そこで俺は気付いた。これはあの時の夢だ。あの日、フォルナと出会ったあの日を今夢に見ている。そう気付いた瞬間俺の体はあの日の記憶を辿り始めた。
家を出て、私は散々な毎日を送っていた。宿は子供の私だけを泊めてくれるところはなく、常に野宿。持ってきていた服などを売って、それでもあまりお金を使いすぎないように、安くて硬いパンを必死に何回も噛んで食べた。夜は薬を飲まなくなった体から魔力が溢れ出してきていて必死に食い止めていたから寝ることもままらなかった。それでもついには売るものもなくなり、風呂屋に行く金もなくなり、食べるものもなくなって、私には何も残らなくなった。
あの日は、運悪くガラの悪い奴らに捕まりそうになって、必死で細い路地を走り抜けて逃げていた。どんどん逃げていくうちに自分がどこにいるのかも分からなくなって、道の端っこに座り込んでいた。視界の隅に入る自分の裸足。どこかで切ったのか血が出ていた。体も洗えなかったから垢にまみれていて臭い。お腹も空いていてもう一歩も動けなかった。
漠然と私はここで死ぬんだって思った。前世の記憶から今、ここに至るまでの記憶が走馬灯のように頭を駆け巡る。
「見つけたぜえ、坊主。んあ?てめえよく見たら綺麗な顔してんじゃねえか。これならいい値で売れそうだ。」
「おい、その前にこいつと遊ばせてくれよ。俺、たまってんだよ。」
「はあ?お前よくこんなきたねえガキとやれんな。俺ぜってえ無理!」
「んだよ、うるせえな。」
目の前に立っている男たちの会話がだいぶ物騒なのには気付いてた。けど、もう体は動こうとしてくれない。雨にぬれたただの布になってしまっていた服ですら重く感じる。ぼけっとしていたら急に地面に押し倒されてしまった。頭を打ち付け、体が痺れる。布の隙間から誰かの手が入ってきて自分の体を這っている。いやだ、きもちわるい。声を出そうと思ってもひゅーひゅーと空気の音がするだけだった。涙も自然と零れる。
その時、彼は現れた。メドキルアのような黒づくめの格好。まるで死神。
「なんだてめえ!やんの・・・・か・・・・・。」
「おい!なに・・・し・・・た・・・?」
体を這っていた手が無くなって代わりに温かい手が私の体を包み込んだ。
「だ・・・れ・・・?」
「僕は、フォルナ。一緒においで。」
その時の私はいろいろ極限状態でそのままフォルナの腕の中で意識を失った。そしてまるで映画を見ていたような状態だった俺も体がどこかに吸い込まれるような感覚を感じた。遠くに、優しい声が聞こえる。俺はその声と光の方向へと進む。
「アル?アル起きて。こんなとこで寝てちゃ風邪ひくよお。」
目を開けて一番に飛び込んできたのは俺の顔を覗き込むフォルナの顔だった。そのことにとてつもない安堵感を覚えた俺はフォルナに飛びつく。
「うわあ、びっくりしたあ。どうしたの?怖い夢でも見た?」
「・・・俺とフォルナが出会った時の夢。」
「あー、あの時かあ。懐かしいねえ。あの頃に比べて大きくなったねえ。」
俺の背中をなでながらしみじみと呟くフォルナに抱きつく力を強める。
「アルは好きな時に僕の所から出て行っていいからねえ。ここにいるとアルの世界は狭くなってしまうだろうからさ。ま、それは当分先みたいだけどねえ。」
「うん。俺、フォルナ好き。だから離れたくない。」
「そっかそっかあ。照れるなあ。僕もアルのこと大好きだからねえ。」
あの日、あの時、あの場所でフォルナと出会うことができなかったら。それはよく考える。考えるたびに俺はフォルナと出会えたことをすっごく感謝する。だって俺は今幸せだから。
裏設定:ガラの悪い人たちはフォルナに睡眠魔法をかけられて昏倒してしまいます。その後どうなってしまったのかは不明。




