第1話 温かな日々
前回急な展開で終わらせてしまったなという感じがしてしまってて、後悔していたのにまた今回も時が飛びます。ご注意ください。
俺の一日は今俺が住まわせてもらっている家の主人を起こすことから始める。
また綺麗な黒く長い髪が乱雑にベッドへ散らばっているのをもったいないなと思いつつ、布団ごしにそいつを呼びかけながら揺する。
「おい、起きろフォルナ。」
「・・・・。」
「おい、」
「・・・・。」
俺の主人、フォルナは寝起きが悪い。俺も引き取られて6年がたつがいまだに一回目の呼びかけで起きたためしがない。しょうがない、不本意だけどあの起こし方をするしかない。
俺はベッドの上で布団にくるまり丸まって寝ているフォルナの体の上にまたがるとむぎゅうっと全力で抱きついた。今俺が出せる最大限の力を振り絞って絞め殺す勢いで抱きつく。すると流石に苦しくなったのかフォルナは布団から顔を出した。
「おはよお、アル。今日も元気だねえ。」
「・・・起きろ。」
「うん、わかったあ。」
まだ眠たそうにしている青い瞳をふにゃっと緩ませると俺の頭をなでながらゆっくりと起き上った。それと同時に綺麗で長い髪がさらさらとフォルナのもとへと戻っていく。フォルナの髪は腰まであってそれをいつもポニーテールにするのが俺の与えられた仕事。最初会ったころめんどくさがって縛っていなかった髪を俺に仕事として与えてくれた。以来、毎日欠かさず俺はフォルナの髪を結んでいる。
フォルナと出会ってから一人称も変えた。今まで住んでいた家ではあまり男という実感がなかったが、フォルナの仕事を手伝いながら生活するという前より自立した生活によって、いつまでも前世のことを振り返って比べていてはだめだということに気付いた。
「今日の朝ごはんは、なあに?」
「フルーツサンド。」
「うわあ、楽しみだなあ。」
・・・別にまだフォルナに人見知りを発揮している訳じゃないけど、俺のしゃべり方はほぼ単語というふうに定着していた。それにまだ知らない人とはしゃべれないし・・・。
俺と違ってフォルナは誰とでも気さくに話した。近所のおじいさんから、つい最近生まれた赤ちゃんまで(これはフォルナが一方的にだった)。しかも綺麗な二重の瞳に筋が通った高い鼻、いつもにこにこと笑う形の整った唇からはどこか緩い言葉がふわふわと出てくる。そう、フォルナはかっこいいんだ、すごく。でも見た目は25くらいなのにたまに見せる遠くを見るような瞳がとても長い月日を感じて、前に一度年齢を尋ねたことがあった。そのときの衝撃は今でも忘れない。絶対誰も信じないような年齢だった。
フォルナの仕事はよく分からないけど、すごい魔法使いだっていうことは知っている。なぜなら俺と出会ってすぐ、フォルナは一瞬にして魔力過多症を見抜き、そして封印まで施したから。それでもまだまだ増え続けている魔力にたまに栓抜きをするんだけど、暴発しても周りに被害が及ばないようにすごく強い結界をフォルナは張ることができる。そして栓抜きが終わった後、毎回朦朧とする意識の中、ずっと頭をなで続けてくれる。ちょっと恥ずかしいけど、嬉しくてあったかい気持ちになりながら俺は眠る。だから俺はフォルナが大好き。とっても優しくていつも笑っていて魔法がいっぱい使えてかっこいいフォルナが。
「アルー、また髪長くなってきたねえ。どうするう?切る?」
確かに定期的に切っていた髪はまた伸びてきていて、肩より少し下まであった。
「・・・フォルナと一緒にする。」
「僕と一緒?」
「縛る。」
言った途端になんか自分の発言の幼稚さに赤面する。恥ずかしい。ちらっとフォルナを見てみると俺を見てにこにこ笑ってた。
「いいねえ、僕とお揃いにしよう。アルも大きくなってきたしい、大人っぽくなるかもねえ。」
フォルナの思いのほか乗り気な言葉に嬉しくなって笑みが零れる。やっぱり俺、フォルナが好きだなって。
ありがとうございました。
次の話くらいでフォルナとの出会いの話を、と思っています。