第11話 忌避の対象
私の魔力の暴走から数日が経っていた。目が覚めた後高熱が続いたがなんとか無事回復して昨日サフィ先生からもう大丈夫というお墨付きをもらっていた。
サフィ先生が言うにはどうやら私の魔力はどんどん増えているらしく、薬で強制的に減らしていたが、それも限界だったらしい。そしてついに、私が薬を飲み忘れた事によって私の体から暴走という形で魔力が溢れ出たらしい。
真剣に話を聞いてはいたけど、やっぱりいい大人が真顔で魔力とか、暴走、とかちょっと恥ずかしいよ。・・・魔力と言うのはまだちょっと抵抗あるし。こういうときにああ、異世界なんだなって実感してしまう。前世では毎日が同じことの繰り返しで、たいして変わった事もなかった。同僚や先輩とも馴染めず、それどころか悪口を言われてるんじゃないのか冷や冷やしていた。人の視線が怖い。それは今も変わらないけど。
ああ、そういえばミシェラも変わった。
「早く死ね、忌み子。」
勿論、悪い意味で。どんどんミシェラの言葉がきつくなってきている。しかも私の魔力の暴走後それは顕著に表れた。消えろ、死ね、忌み子、分かった事はとにかくミシェラは私の事が嫌いだという事。多すぎる魔力は忌避されるらしい。前お父さんの部屋からパクッた本を読んで知った。魔力が多いのはいい事だけど、あまりにも多いと魔族ではないかと迫害されてしまう地域があるようだ。魔族というのは人間よりも格段に身体能力も魔力量も勝っている種族らしい。でも、500年ほど前の戦争で大分数が少なくなってしまって今では絶滅危惧種のような存在のようだ。
今ではそれこそ魔族は迫害されないものの、やはり高齢な人や魔族を忌む宗教に入っている人は毛嫌いしていて、差別をしているみたい。
多分ミシェラは大分高齢だし、魔族や魔力が高すぎる人たちを忌むべき存在だと教えられてきたんだな。だからしょうがないっていう訳じゃないけど、辛いよね、やっぱり。
私だって好きでこんな魔力量で生まれた訳じゃない。好きでこの世界で生まれた訳じゃない。なのに何で。
「お前が生きているとウェストリア家の方々は不幸になってまう。お前のせいだ。」
今日も朝からまるで呪い殺す勢いで私に暴言を投げつけるミシェラ。悲劇のヒロインになりたい訳じゃないけど、やっぱり家族には言えない。こんなこと。
「ミシェラー、俺の体操着知らないかー?」
「ソリス坊ちゃんの体操着ですか?あちらにございますよ。」
「おー。ありがと、ミシェラ。」
「ミシェラっ、どうしましょう!ベーコンが焦げてしまったの!」
「大丈夫ですよ、奥様。では、今朝は違うものにいたしましょう。」
「そうね!助かったわ!」
「ミシェラー?」
「はいはい、なんでございましょう?」
ミシェラは家族にとってもう使用人の枠を超えた存在になっているから。なのに私が変な事を言ってこの幸せな空気を壊してしまいたくない。だから頑張れる。いくら蔑んだ目で見られても、冷たい言葉をかけられても、たまにぶたれても、まだ大丈夫。・・・ほんとに我慢できなくなったら家族に言おう。でも、まだ我慢できるし、うん。私はちゃんと薬を飲んでもう暴走が起こらないように気をつけなくちゃね。
顔を洗うため、洗面所へと行く。鏡に映る私は母譲りの金髪と魔力量によって紫色になってしまった瞳。前世はすごく地味な容姿だったけど、今はすっごく美少年へと変貌してしまった。へにゃりと八の字になる眉を意識して無表情へと変える。ミシェラがいる手前、あんまり笑う事もしない方がいい。だったら無表情でいようと思い立ったわけ。ま、もともと前世からの人見知りであんまり笑わなかったんだけどね。
パチン、自分のもちもちのほっぺを軽く叩いて気合を入れる。よし、今日も頑張る!
そうして私はリビングへと小走りで向かった。
ありがとうございました。