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父と娘  作者: 佳苗
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遺体の確認には弟と母が行くこととなった。

父と母が揉めた件で、万が一なにか私に影響が出ないように、との配慮だった。


父の死因は心臓発作による突然死だったという。

救急車が来た時には手遅れだったそうだ。


家は一人暮らしで仕事もして居なかったため近所付き合いもなく、本人が持っていた手帳にあったのは私達の古い連絡先だけだったそうだ。

その中で唯一携帯の番号を変えていなかった私に電話したのだという。


警察署では遺体の引き取りを打診されたそうだ。離婚しても、元は家族だろうとか、色々言われたらしいが、母ははっきりと拒否した。


それも、私達になにか迷惑を被る事がないようにと考えた結果だった。


その後も暫くは私の携帯に父が搬送された病院や、住んでいた住宅の管理会社などから電話が掛かってきた。

しかしその全てを関係ないので、と拒否するしかなかった。


暫くしてそれらが法的にも、収まった頃

父の遺品の整理だけはして欲しいと、大家だという男性から電話が掛かってきた。


最初はそれまで通り拒否をしていたが、大家に保障人に私の名が使われている事、遺品には父個人のもの以外も多くある事を聞かされた。

まさに寝耳に水な事態に思わず叫んだ私は当然関与するつもりはなく、弁護士に依頼し、その不当性を主張した。

その主張は受け入れられ、ただ私物の確認ではなく立会いとして母達が行くことで話がついた。


母達が父の自宅へいっている間、私は携帯電話に入っている父の古いメールアドレスをなんとなく見ていた。


そのアドレスは母のあだ名と私達のイニシャルで出来ていた。


父が携帯を初めて買った時、私達姉弟が考えたものだが、父はこれをいたく気に入ったようで、翌日には部下に見せびらかしたと話していた。


楽しい人だった。

優しい人だった。

なのに

何故こうなったのだろう



1時間ほどして母達が戻ってきた。

行きには空であったカバンにいっぱい見覚えのある物が入っていた。

その多くは昔母達と家を出た時に置いて行った写真などの思い出深い品であった。


2人は何も言わずそれらをテーブルに並べ、デジカメを私に差し出した。


中の画像はたった3枚。


写真立てやアルバムなどの思い出の品に囲まれたベッドがあるだけの部屋と、食器が綺麗に片付けられた台所。そして恐らく倒れたために散らかったのであろう玄関だった。


他には何も写って居なかった。

2人は他は何もなかったからと話していた。

それだけでは文字通り本当に物が何も無かったのか、単なる普通の場所だったのかは分からなかったけれど、私は何故か妙に納得してしまった。


きっと、ほんとうになにもなかったのだろうと。


もちろん日用品ほあったのだろう。

しかしそれしかなかったのだ。


あの人にとって日々の生活は必要最低限なものであって、心の総ては過去の家族に囚われていたのかもしれない。


一見異様にしか見えないその部屋が、孤独になってしまった父の最期の砦だったのであろう。






それから3年たった。

父の墓はない。

遺体の引き取りを拒否したため、無縁仏として警察署で処理されたからだ。


家族の会話に父の話が上がることもなく、それまでとさほど変わらない日が続いている。


変わった事といえば、私達のアルバムに古いものが追加されたことと、仏教徒らしく仏壇に手を合わせる際には父の冥福も祈るようになったこと。

そして年に数回だけ、スマホのアドレスから、父のメールアドレスを呼び出しては削除せずにフォルダを閉じることと最期に家族5人で撮った写真を見ることだった。



私は最期まで父にとって良い娘にはなれなかった。

父の愛を知っていたけれど、

父の孤独を見ぬふりをした。


私にとって父は

父にとって私は

一体どんな関係だったのだろう


未だに答えは出ない。

ただ言えることは父からの愛を疑ったことは無く、また、父のことを嫌うことが出来ないでいるということだけだ。


今日も私は仕事に出かける。

父と近い年齢の仕事仲間と冗談を言い合いながら。


なんとなく見上げた空は雲一つない快晴だった。


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