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父と娘  作者: 佳苗
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3

2人の離婚はすぐに決まり、私達3人は全員母のもとで暮らすこととなった。

親権に関しては父も主張したようだが、姉の件と、私たちがあからさまに父に不信感と恐怖を覚えていることがあって、しぶしぶでも承諾してくれた。

そして判を押してすぐ

私たちは事前に用意しておいた最低限の荷物だけをもって、

母方の実家に転がりこんだのだ。


学校には2時間かけて電車で通った。

確かにしんどかったけれど、大学生になったらこんなのは当たり前だというし、今からいい経験だとか思って、結構楽しんでいた。

祖父母の手伝いをしているうちに母がまた昔のように笑うようになった。

弟が祖父と口喧嘩してはその度に祖父と大暴れするようになった。

(元気になって喜ばしいと思ったよ?毎回怒鳴りつけてたけど。)

姉が婚約者との話を幸せそうにするようになった。


時折、父から電話があったり、外で会って一緒に食事をしたりもした。

お互いに距離が開いたことで落ち着いたんだろうか

父と母は近況報告をまるで古い友人にするかのように話していた。

そりゃすぐ話がこじれて口論になることも多かったが。

久しぶりに見る、そんな2人の姿に実は何度か泣きそうになったりしたのは内緒だ。


そうして新しい家庭関係が作り直されていった。


私たちは昔5人で住んでいた場所から自転車で1時間ほどの場所に住むこととなった。

築何年だという団地マンションは2度の震災を乗り越えたというだけあって頑丈そうなつくりをしていた。

学校にも自転車で通えるようになり、3人とも嬉々として駆けまわったものだ。


父は以前住んでいた家を引き払い、私達の家の近くに引っ越してきていた。

それに母は良い顔をしなかった、というか完璧に顔をしかめていたけれど、

それでもそれ以上はなにも言わなかった。


今だからわかるが、きっと父が寂しくて、恋しくて堪らなくなっていたのをわかっていたのだろう。

家族、親族との縁の薄い父にとって、唯一のものが私達であったから。


それから半年後。

父と母は一度、大きな口論をしたのを最後に決別した。

家にやって来た父と、それを玄関で出迎えた母が激しい口論になったのだ。

内容を聞かせまいとしたのだろう。私達3人は母に言われ、別室で夕食を食べた。

それでも団地の薄い壁とふすまごときで話が漏れないはずもなく、その原因が私にあることが容易に理解できて、申し訳なく思ったものだった。

姉と弟に肩を抱かれながら3人ひっそりと覗き見た怒りをあらわにした父が

私の記憶の中の最後の父の姿だった。



家族を支える為にはまず手に職だと考えた私は就職率と専門性から介護の世界を目指すことにし、最もらしい理由を言いながら資格の取れる短大を受験した。


そして無事に国家試験に合格し、家から程近い施設に就職することが出来たのだ。


それからは目の回るような日々だった。


慣れない仕事に四苦八苦しながらもやりがいに溢れる介護の仕事が好きになった。


弟は私大ながらも無事進学することができ、姉は婚約者と結婚した。


綺麗なウェディングドレスを着た姉とバージンロードを歩いたのは母の弟である叔父だった。


父がいないのが当たり前となっていた。


そんな時、我が家に一本の電話が掛かってきたのだ。



「貴方の父親が亡くなりましたので、遺体の確認に来てください。」


電話は地元の警察署からであった。


最初、何を言われたのか理解出来なかった。

いままで警察署に無縁だった私はそう名乗られた時点でパニックになっていたのだろう。


余りにも挙動不審な私を、見兼ねた弟が私から受話器を引き取り会話を継いだ事に気がついたのは全ての話が済んだ後だった。








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