1-4 鎖
魔導器
それは人間には出来ない事をやってのける為の道具であり武器でもある物である。
その始まりは誰も知らない。人類の祖先が作った、空から落ちてきた神の恵みだ、不可視の精霊が具現化した姿だ……。様々な説があるがこの論争には未だ決着がついていない。
分かっているのはかつては非常に強力な魔導器――原点と呼ばれる物があったと言う事。その力は凄まじく、一振りで天を割ったという伝承があれば、決して消えない炎を作り出したとも言われている。これらは各地の伝承として残っているが、肝心の原典魔導器に関してはその殆どが見つかっていない。これはかつてそれを扱っていた先人達がその強力さ故に封印したからと言われている。
だが見つかった原典魔導器もある。それらは研究され、やがてはその複製が作られる様になった。不完全と呼ばれる魔導器がそれだ。原典程の力は無かったものも、十二分に強力な力を秘めていたそれらはやがて戦の理由となっていたのも必然と言えた。東のゼルファース。西のノックス。北のヴィンヤード。そして南のリスラマ。この四国における領土と魔導器の奪い合いの始まりである。
より強い魔導器を持てば優位に立てる。そんな単純な図式から戦争が始まったのが15年前。戦争に投入された不完全魔導器はその力を発揮し、ほんの数年で大陸中に瓦礫と炎、血と躯の山が生み出された。だが皮肉な事に、戦争が拡大し激化していくにつれて不完全魔導器は破壊されるなどして数は減少していった。元々作成には高度な知識と技術、そして純度の高い核が必要であり、それらの生産があっという前に追いつかなくなったという事もある。不完全魔導器を作成できる技師――錬金術師とも魔術師とも呼ばれた者達も戦いに巻き込まれ、自らの作った魔導器で死んでいった。敵国の戦力を削ぐ為に暗殺された者も少なくない。己の身の危機を感じ逃亡した物も多い。そうして遂には不完全魔導器を作れる者は居なくなっていき、戦場でその姿も消えていった。
戦争なのに戦う為の武器が無い。剣や槍、銃や戦車はあっても最も強力武器であった魔導器が無い。そんな緊急事態の中で次に生み出されたのが模造品と呼ばれる魔導器だ。原点を模倣し作成された不完全魔導器。それをさらに模倣して作られたのがそれである。この模造品と呼ばれる魔導器の利点は作成が比較的容易であり、残された者達でも生産出来た事。欠点は不完全魔導器よりもその力は大分下がっていた事だ。しかしそれでも唯の剣や槍よりは強く、銃弾も防げた。戦車相手でもやり様によっては戦える。故に模造品は爆発的に生産されていった。
そんな模造品と呼ばれる魔導器を用いて続いた戦争だったが、元々の目的であった強力な力を持つ魔導器が消えていったことから徐々に収束していき、やがては停戦となった。そもそもどの国もこれ以上続ける程余力が無かったと言う事もある。
そして戦争中に生み出された模造品と呼ばれる魔導器はその作成の容易さから次第に市場にも出回っていくようになった。その形態も変化していき炎を生み出す武器型魔導器は暖を取る為の生活魔導器へ。敵を斬る為の魔導器は建築等の際、資材を容易に切るための物へと。
このようにこの世界にとって魔導器と言う物は良くも悪くも人々に関わってきた重要な物である。
そんな魔導器の一つが今、
「おーっほほほほほほ! うちのノワに何してくれたのかねこのゴロツキはっ!?」
「痛ってぇ!? オイコラそれ以上は…………うおおおおおおぉ!?」
異様なテンションのジェネスの手によって私刑の拷問器具と化していた。
色々と台無しである。
ラズバードの自警団の一人、セシル・グレイは目の前の光景に対し、自分はどんなコメントをすべきだろうかと考えていた。
昨日自分が病欠した際に大きな事件があった事は聞いている。同僚のノワとジェネスが巻き込まれたとも聞いていたので、彼女は朝早く急いで自警団の詰所へやってきたのだ。しかし心配していた彼女を余所に中で繰り広げられていた光景は彼女の想像の斜め上を行っていた。
「…………痛ってぇ……」
「はあ、はあ、はあ、アンタどんだけ頑丈なのよ……」
息を荒らげながら対象に電流を流す魔導器を手にして呆れるジェネスと、ぷすぷすと黒い煙を上げて呻く男。そして、
「…………」
何故か毛布を体に巻き付けて顔を真っ赤にしながら半泣き状態のノワ。しかもその毛布の中から鎖が伸びており男の腕に繋がっている。何なのだこの混沌した空間は。
「えーと、……修羅場?」
「ち、違いますっ」
思わず漏らした言葉にノワが反論する。だがそれ以外に的確な言葉が思い浮かばない。
「いやじゃあ何なのコレ」
「それは……」
何故か俯くノワ。そんなノワの肩に手を置き、ジェネスは首を振った。
「セシル姉が休んでいた間にノワが…………」
くっ、と唇を噛み深刻そうに俯くジェネスの様子に流石にセシルは姿勢を正した。見た目のインパクトに押されていたがもはやそれほど深刻な事態なのだろうか? 自分もロッカーから拷問器具(私物)を持ってくるべきかもしれないと考えつつ、ジェネスの言葉を待つ。ジェネスは躊躇う様に口ごもるがやがて意を決したように顔を上げた。ごくり、と待ち構えるセシル。そしてジェネスが口を開く。
「ノワが……ノワが……私たちの目の離した隙に大人の階段三段飛ばして拘束プレイに目覚めっちゃったっぽいけどどうしようちょっと負けた気分!?」
「何を言ってるんですかあなたはっ!?」
飛び上がったノワがジェネスを叩き倒すのを尻目に、セシルはモーニングコーヒーを入れるために台所へ向かうのだった。
「で、結局どうしたってんだい一体」
あれから一応全員分のコーヒーをセシルが入れ、落ち着いた所でセシルは切り出した。因みにセシルはソファーに座っているがノワは部屋の隅で相変わらず毛布に包まっており、鎖で繋がれた男――ラクードもその数メートル横で胡坐をかいている。ジェネスもノワの直ぐ隣だ。
「いやね、朝いきなりノワの部屋から悲鳴が聞こえたから慌てて行ってみれば下着姿のノワと床に突っ伏したこいつが居た訳よ。で、真面目な話どんな状況なのこれ」
そんなジェネスの返答に全員ががくっ、と崩れ落ちた。
「おい待て、お前は状況も分からないまま俺に拷問かましてくれたのか」
不満げに睨むラクード。その頬にはおそらくノワの手によるものであろう、紅葉の様な平手の後があった。
「いやけど泣いてる着衣の乱れた女性とその目の前にいる男っていう光景見たら女として反射的に正義執行すべきかと思うのよね」
「お前な……」
「と言うかこの男は誰?」
ラクードとは初対面のセシルが不思議そうに尋ねるのでジェネスは昨日の出来事の説明を始めた。それを聞いたセシルは成程、と頷くとラクードに向き直る。
「さて、ラクード・ウルファースさんとやら。何でノワの部屋に居た?」
「知らん……いや、一部は分かるが何故こうなったのかが分からないな」
「? どういう意味だ?」
予想外の返答に全員が首を捻る中、ラクードが己の左腕を上げそこに嵌められた腕輪と鎖を見せる。
「この鎖、見覚えが無いか?」
チャリ、と音を立てるラクードの鎖。全身がそれに注目し、自然とその鎖に繋がれたもう片方、つまりノワにも視線が移る。
「確かにあるわね。ノワ、間違いない?」
「え、ええ。あの剣についていた物で間違いないです」
頷くノワも毛布の中から己の右腕を外に出す。そこにはラクードの腕輪と同じ形状の物が嵌められている。
「昨日はこの腕輪の先には黒い大剣が繋がれていました。と言う事はつまり……」
「どうもそう言う事らしい。その剣が……俺だ」
しん、と部屋が静まり返る。余りにも異様な事態に誰しも口を閉ざす中、ジェネスが震えた声を漏らす。
「う、うそでしょ? ということは」
「ええ、正直信じられませんが……」
ノワも戸惑った様に悩む中、ジェネスの眼がかっ、と開く。
「と言う事はこの男は昨日ノワが着替えの時も風呂の時もおやすみからおはようまでその全てを見ていたって事よね!? 何それ羨ましいっ!」
「……………………え?」
ジェネスの放った渾身の叫び。ノワはきょとん、としていたが直ぐにその言葉の意味を悟るとその顔が一気に羞恥に染まった。自らの体を抱きしめる様にして後ずさりつつ涙目でラクードを睨む。しかしラクードは慌てて首を振った。
「おい待て! 俺の意識が目覚めたのは夜中だから今あそこのネジが飛んだ女が言った様な事はしてねえぞ!」
「本当ですか!? 本当なんですね!? 嘘でしたら承知しませんよ!?」
「嘘じゃねえって。いや確かに証明する手段は無いかもしれんが……うわっ泣くなオイ! 本当だから、見てねえって!」
「……………………」
納得したわけでは無いだろうがノワは小さく頷くと顔を俯かせた。ラクードも流石にこれはどうにもならず頬をかく。
「おい、どうすんだよこの状況」
「そうさね、とりあえずそこの馬鹿は黙っとこうか」
「セシル姉! これは重要な事よ!」
「黙れ阿呆。これ以上馬鹿言ったらアンタの下着ばら撒くよ」
「それは同じ女としてどうかと思うけどなあ!?」
ぎゃーぎゃーと喚くジェネスを無視してセシルはふむ、と頷く。
「つまり先ほど説明にあった、事件の後にノワに繋がれていた大剣がお前だと。随分と珍妙な特技を持っているな」
「んな訳あるか。俺は純粋に人間だよ。第一そんな特技持ってたとして他人と鎖で繋がってまでする必要が無い」
「まあそれもそうだわな。と、なると別の原因か。心当たりは?」
「ある」
即答したラクードにセシルはほう、と面白そうに頷いた。ノワも気になるのか顔を上げラクードの言葉を待っている。
「魔導器だ。あのクソナルシス――アズラルは俺達で試す、と言っていた。そして爆発の寸前妙な剣を俺達に向かって投げていた記憶がある。あれが無関係とは思えん」
だがセシルはラクードの答えに反論する。
「人を鎖で繋ぎ剣に変える魔導器? そんなもの聞いたことが無い」
「だから『試した』んだろうよ。唯の魔導器には実現不可能な奇跡。その効果とやらを」
「ちょ、ちょっと待ってください」
まだ少し顔の赤いノワが慌てて口をはさむ。それほどまでに焦ったのは、ラクードの言い方がまるで――
「原点みたい、か? まあこれはあくまで仮説だ。そんなほいほい原点が出てくる物じゃねえからな。けどこいつは相当頑丈だったんだろ?」
そう、昨日の時点で色々試したが結局壊す事の出来なかった腕輪と鎖。その強度は異様と言えた。
「あくまで可能性だ。もしかしたら不完全魔導器かもしれない。全く別の何かかもしれない。言いはじめたらキリが無い」
「ふむ、人を剣に変える、いや、変身させる魔導器と言う事か? 今も剣に変身できるのか? というかそもそもどうやって戻った」
「戻ったのは朝だ。その少し前から意識はあったが状況が読めなくてな。それでも自分の体がおかしい事には気づいたから元の自分をイメージしていたら戻れた」
答えつつラクードは目を瞑る。そして元に戻った時とは逆に、今度は剣となった自分をイメージすると、案外簡単に体に変化が起きた。黒い光が身を包み、そしてラクードの体を剣へと変化させ、音を立て床に転がった。
感心したようにセシルが頷く。
「随分と簡単にやるね。もっと面倒かと思っていたが」
《ああ、俺も意外だった》
「しゃ、しゃべった!?」
床に倒れた巨大な漆黒の大剣。そこから発せられた声にノワが驚く。
「言語機能は有りと。む、重いな……。ノワはよく持ち帰れたな」
立ち上がり剣を拾い上げようとしたセシルが、その重さに眉を顰めるとジェネスも頷いた。
「あーそれね、昨日私も試しんだけど全然重かったのよ。けどノワは普通に持つのよね」
「何? ノワ、試してみろ」
「は、はい」
相変わらず毛布に包まったままも近づいてくると、ノワは大剣を片手で容易に持ち上げた。
「これは凄いな。重くないのか?」
「少しだけ重いですが持てない程では無いです」
「成程。ではラクードとやら、元に戻ってみてくれ」
《ああ》
「え?」
ノワが握っていた大剣が先ほどと同じ様に黒い光に包まれ、そしてそれは人の形となった。そしてノワが握っていた部分はそのままラクードの鎖ついた左の掌へと変わり、図らずして二人は握手する様な形となった。
「あん?」
「あ……きゃっ!?」
お互いにその結果が予想外だったので思わず眼が合ってしまい、ノワは慌てて手を離した。そしてずれそうになった毛布を慌てて支えるが、その姿を見てラクードがふと気づく。
「なあ、さっきから思ってたんだが何で服着ないんだ?」
「そ、それはこの鎖があるから袖を通らないんです」
ノワが困り果てた様に鎖に視線を落とすが、ラクードは首を傾げた。
「いや、だったら一度破いて着てから魔導器で直せばいいんじゃねえのか?」
「本当にどうしたら――――――――――え?」
「あ」
「だな。私も思っていた」
硬直するノワとジェネス。セシルだけは再び席に戻り優雅にコーヒーを飲んでいた。
「そ、それは……」
「えーとそのあれよね」
つまりはその方法は思い浮かばなかったらしい。二人共、昨日は自分達で思っている以上に疲れていた様だった。
ノワとジェネスは顔を見合わせ、そして恥ずかしそうに俯いた。
「振り向かないで下さいね!? 絶対ですよ!?」
「あーわかったわかったから早くしてくれ」
ラクードの指摘後、一端魔導器の事は置いて服を着る事になった。ジェネスがノワの服を部屋から持ってきて早速着替えを開始する。しかしラクードとノワは鎖で繋がれている為にあまり遠くへ離れられず、仕方なくラクードが後ろを向きその間に着替える事になったのだった。セシルとジェネスが監視している為、ラクードが振り向くことは無いかと思われたがそれでもノワは不安になり何度も確認してしまう。ラクードも気持ちはわからないでも無いので素直に従っていた。
ジェネスが持ってきたのは白のワイシャツにカーディガン。下は黒のロングスカートといった組み合わせだ。下は問題なく穿き終えると、ノワはシャツの右側を袖口から真っ直ぐにナイフで切っていく。切り終えたら腕を通し、続いてジェネスが用意したペンダント型の魔導器を握りしめた。
「《天恵》」
修復機能を持った魔導器の力が発動し、握りしめた手が淡く光る。その手でそっと、衣服の着れた部分をなぞるとまるで時間が巻き戻したかのように切れた部分の布が繋がっていき元の形となった。それを確認してノワは安堵のため息を付く。
「終わったか?」
「ええ、ありがとうございます」
振り向いたラクードに礼を言うがラクードは対して気にしていない様でひらひらと手を振っただけだった。
「それよりだ、とっととこの鎖を解く方法を探して俺は帰りたいんだが。用事があるんでな」
鬱陶しそうに鎖を持ち上げるラクード。ノワとしてもそれは同様なのでどうしたものかと考える。そんな二人にセシルが声をかけた。
「ノワ、お前の姉達なら何か知っているんじゃないか?」
「姉様ですか? 可能性はありますけど……」
「ならば行ってくると良い。っと、その前にまずは警察だったか?」
そう、ノワは昨日の事情聴取の為に一度警察署へ向かわなければなら無い。セシルはそれは思いだし、自らも立ち上がった。どうやら一緒についていくらしい。
「まだ話を全部聞いたわけでは無いからな。そのアズラルとか言う男の事も含めて、同じことを二度話すよりまとめて済ました方が良いね」
「それはそうですが、この状態で?」
チャリ、とノワが右腕を持ち上げ鎖が音を鳴らす。
「仕方あるまい。なあに、街で人に訊かれたら重要参考人を連行中とでも言っておけ」
「待て、それだと俺がまるで犯罪者の様な扱いじゃねえか」
「しかし他に方法がないのだから仕方あるまい? お前も早く元に戻りたいのなら協力するのだな」
「……ちっ」
納得はしないが理解はしたらしいラクードが大人しく引き下がった。彼としてもこの状況を解決するにはしばらくは言う事を聞いた方が良いと考えたのだ。
「では出発と行こうか。所でデミ爺はどこに行った? 今日は姿を見てないが」
「昨日はここに止まった筈だからまだ寝てるんじゃない? 叩き起こして留守番させるからセシル姉達は先に行っててよ。後から追いかけるわ」
「分かった。では行くぞ」
そうして三人は街の小さな警察署まで向かう事となるのだった。
外に出ると指す様な冷たさがその身を襲う。暖を取るための魔導器は使用しているが、それでも防ぎきれない冷気にノワは軽く身震いした。
空は快晴。昨日の様に雪は降っていないが、夜の間に降り積もった雪により道は一面白くそまっており、今は市民たちが雪かきに勤しんでいる。
「そういや昨日の連中はどうなったんだ?」
「連中……あの山賊紛いの者達ですか? 彼らは一応治療されて今は拘束されています。何分人数が多いので一度首都へ送るそうです」
「まあこんな田舎町では対応しきれないって事か。そもそもあいつ等の目的ってなんだったんだ? 随分中途半端な場所で襲ってたが」
「先日も実はこの街に彼らの仲間現れて拘束したのですが、どうもその拘束された仲間を助けるための交渉材料にしようとしていたらしいです。街を直接襲わなかったのは返り討ちを恐れたのでしょう」
「それでいざ列車を襲ったらもっと酷い目にあったと。アホらしい。…………ところで嬢ちゃん。なんでそんなに離れてるんだ?」
ラクードが隣に歩くノワに視線を移す。ノワはラクードの左側で数メートル離れた位置を歩いていおり、必然的に繋がった鎖はぴん、と伸びてしまっている。
「そ、それはですね……」
「恥ずかしいんだよ、ノワは。アンタがノワのあられもない姿を見たのは不可抗力だが、だからと言って直ぐに頭を切り替えられないのさ」
そんな二人の間を歩いていたセシルが面白そうに笑いつつ鎖に触れる。ノワもまだ顔は少し赤く、ラクードの方を直視できないでいた。
「そういう事か。まあ確かに気分の良い物で無かっただろうな。今更だが悪かった」
「い、いえ。セシルさんも言った通り不可抗だったのは確かですし、そもそも剣を部屋まで持っていたのは私ですから」
ノワも一方的にラクードが悪いとは思っていない。要は気持ちと羞恥の問題なのだ。
「しかし見れば見る程面白いさね、この鎖。これが魔導器だとして何でこんな物を作ったんだか」
セシルは鎖に顔を近づけながら興味深げに表面をなぞっている。セシルの疑問は最もであり、ノワとラクードも首を捻った。
「状況からして罪人を拘束する為の物じゃねえのか?」
「しかしそれだと腕輪が外れない限り罪人と繋がれたままになります。それなのにお互いどちらにも腕輪を外すことが出来ないと色々と不便では?」
「確かにな。なら単純に人間を武器に変える為の魔導器か。だがいちいち鎖で繋げる理由が分からねえな」
「案外、将来を誓い合った二人がお互いを逃がさない様に縛り付ける為の道具だったりすかもしれんさね」
冗談めかしたセシルの予想にノワとラクードはぞっとした。いくらなんでもそんな道具でだけはあって欲しくない。
「と、とにかく警察署の後は姉様達に相談してみます」
「そうしてくれ。嬢ちゃんの家族が解決できるならそれに越したことはねえ」
ラクードも頷くが、ノワは不満げに彼を睨んだ。
「昨日も言いましたし、先ほども思いましたが嬢ちゃん、と言うのは辞めて下さい。昨日名前は教えた筈ですよ。第一私はそんな歳ではありません」
「というかアンタそういや何歳なんだい?」
セシルも興味ある様で話に乗ってくる。
「俺か? 19だぞ」
「と言う事は私と二つしか違わないじゃないですか」
「まあそうだな。じゃああれか、クラーヴィスって呼べば良いか」
「その辺は任せます。とりあえず嬢ちゃんだと子供扱いされてる気がするので」
「そういうもんかねえ」
特に興味も無さそうなラクードだがノワとしては譲れないらしく強固にそれを主張した。
「ところでさっきの話だけどよ、昨日の連中は仲間を助けるために列車を襲った訳だ」
「ええ、そうですがそれが?」
「いや、その連中の仲間はそれで全員なのか? まだ他にも居るんじゃねえか?」
「確かにまだ居るそうです。なので他の街から応援を呼ぶそうです。準備が整い次第一気に捕まえる予定らしいです」
ノワは昨日警官から聞いた話をそのまま伝えるがラクードは眉を顰めた。
「随分とのんびりしてんだな。敵さんだって予想してるだろうし逃げられるぞ」
「言いたいことは分かりますが、この街の戦力では無理な攻撃は危険だと判断したんです」
この街でまともに戦える人間は少ないが故の策。だがラクードは首を振った。
「それは分かるが、だからこそ別の問題がある気もするんだが」
「……それはつまり」
本人達もその可能性は考えていたのだろう。厳しくなるノワとセシルの表情。
「仲間は大勢捕まった。他の街から応援も来て追撃される。そうなればとる方法は二つ。とっとと逃げるか、自棄になって、こちらの戦力が薄いうちに残った戦力で実力行使か」
まるでタイミングを合わせたかのように、警察署の方から爆発音が響いた。